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第百三十章 商品開発 6.ジャム

 砂糖が高価なこの世界であるが、高価なだけで存在しない(わけ)ではない。果実を蜂蜜で甘く煮たものは知られていたし、蜂蜜の代わりに砂糖を使って煮たものも作られている。ただ……それらにしても、クロウが提供したほどに純度の高い白い砂糖で作られたものは稀であった。


 言い換えると、果実本来の色を鮮やかに残したものはそれほど多くなかったし、それ以前に様々な種類のジャムを揃えた店というのは全く存在しなかったのである。ジャムそのものは別に難しい作業は必要としないが、充分な資力が無いと材料の砂糖を確保できなかったので。


 砂糖漬けだけでも充分以上のインパクトがあるだろうが、色とりどりのジャムも揃っているとあれば、店の評判は更に上がる筈。クロウはこの方面で手抜きをするつもりは少しも無かった。



「……ねぇ、ジャムに使う砂糖って、本当にこれなの?」



 当惑したような表情のエルフの女性の前には、白く輝くグラニュー糖が詰まった壺が置かれている。



「あぁ、それに間違いない。我々も何度も確かめたんだが、余計な味と色を混ぜずに果実の味と色を引き出すためには、純度の高い砂糖を使う必要があるそうだ」



 やや疲れたような表情で説明するのは、このチームの総責任者を押し付けられたらしい若い男である。



「でも……正気なの? これだけの砂糖、金貨十枚じゃ足りないわよ?」

「売っているものは確かにそうだが、我々には精霊術師様が幾らでも提供して下さるそうだ」



 ここで総責任者の男は深い溜息を一つ()いた。彼とて今までの価値観を根本からひっくり返すような事態に、戸惑っていない(わけ)が無いのである。



「まぁ……売る時は小さな瓶に詰めて小分けして売るそうだから、そこまで無茶な話にはならんだろう。ただ、作る時には大量に作らないと、味や品質が一定しないそうだ」



 解ったら諦めて作業にかかれと言う男の声に、女性陣は恐る恐るといった様子で作業に取りかかった。



・・・・・・・・



「……本当にこの分量で間違い無いの?」

「メモにはそう書いてあるのよ。材料と同じ重さの砂糖で煮るのが基本だって。材料の果物の味によって少し加減するみたいだけど」



 純白のグラニュー糖の山を前にして、引き()ったような表情の女性陣。



「今回はスグリの実がそれほどないから試作程度だけど……これ、本式に作りだしたら凄い事になるんじゃ……」

「ね、ねぇ、ミナ。さっきから気になってるんだけど、コッドの後ろに並んでいる大瓶(おおがめ)って、まさか……」

「フィン、気にしちゃ駄目よ。良い? 駄目なのよ?」

「う、うん、解ったわ」



 色々悟ったような表情で、女性たちは綺麗に洗ったスグリの実を砂糖と一緒の鍋に入れていく。しばらく放置して実から汁が滲み出てくるのを待って火にかける。



「あとはアクをとりつつ、焦がさないように注意するくらいね」

「種はどうするの?」

「しばらく煮詰めてから()すみたい。お貴族様にはそっちの方が良さそうだから、他のジャムもそうするんだって」

「他のジャムって?」

「え~と……種が邪魔そうなのは……山桃(やまもも)とか……あとは茱萸(ぐみ)かな」

「ジャムにできるんだ……」

「酸味のある実は大抵できるみたいよ?」



・・・・・・・・



 別の班では、ジャムにするように指示された材料を見て全員が頭を抱えていた。



薔薇(ばら)の花びら……って、そんなものをジャムにするの……?」

「食べ物……じゃないよね?」

「食べても悪くはないと思うけど……お腹にたまるものじゃないわね」



 野薔薇(のばら)の赤い実をハーブティーにするのは知っているし、彼女たちもよく飲んでいる。というか、五月祭に出したティースタンドでも、割合人気の高かったメニューである。しかしまさか、花びらそのものを食用にするなどとは考えた事も無かった……。

 幸いにこちらの野薔薇(のばら)は、小さいが深紅の花を多数付けるので、花びらを集めさえすればジャムは作れそうである。



「……まだ咲いているよね?」

「多分……心当たりの場所も幾つかあるし……」



 自分たちに割り当てられた仕事をこなすべく、薔薇(ばら)の花を摘みに向かうのであった。


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