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第百三十章 商品開発 5.材料探索

 山の中を歩き回っている獣人とエルフの一行は、砂糖漬けなどに使える果物を探していた。勿論栽培され市販されているものも多いのだが、ベリー類など野山で採集され販売されているものも少なくないのである。

 そういった果実の中から、砂糖漬けやジャム、コンポートに向くものを探し出し、場合によっては栽培化まで検討するように指示されたのである。今回は富裕層がターゲットという事で、色が美しく人目を引きそうなものを優先する指示が出ていた。



「……なんか、えらく大事(おおごと)になってきてるよな……」

「砂糖の販売促進だって聞いたんだが……既に産業振興のレベルだろう」

「それだけ砂糖が裾野の広い商品だって事じゃねぇのか?」

「おぉう……含蓄のある意見だな……」

「無駄口なんか叩いてないで、さっさと行くわよ。山イチゴはもう旬なんだから」

「そうだな……しかし、良かったのか?」

「何が?」

「いや……今から行くのはお前たちの縄張りだろう? 皆で採ってしまって」

「その分は他の砂糖漬けやら何やらを回してもらえるんだから構わないわよ。子供たちに廻す分くらい、後で充分に採れるでしょうしね」

「まぁ……旬の時期に採っといた果物が、長い時間保存できるってぇなぁありがてぇよな」

「……その分、胃が痛くなりそうな量の砂糖を使うんだがな」



 情け無い面でぼやいたエルフの男を、別の男が(たしな)める。



「精霊術師様は、いずれは我々に砂糖作りを任せるおつもりのようだ。今のうちに覚悟を決めておいた方が良いぞ?」

「あぁ……だが、ずっと先なんだろう?」

「現状で俺たちが砂糖を作ってるなんて話が広まったら、あちこちの国に付け狙われかねんからな」



 それを避けるために、砂糖は亜人(ノンヒューム)たちが独自の伝手(つて)で、とある場所から購入した事にしている。疑いを持つ者も少なくはなかったが、亜人(ノンヒューム)たちが製糖作物の栽培も製糖作業自体も行なっていないらしい事は幾つかの筋から確かめられており、亜人(ノンヒューム)たちの主張を受け容れるより無かったのである。



「もうそろそろ……あそこよ」



 男たちの会話をどこ吹く風と聞き流していた女性が、山イチゴの茂みに着いた事を告げる。……ただ、そこは茂みと言うにはあまりにも……



「……おぉ……」

「これはまた……」

「うちの村が代々生育場所を拡げるように努力してきた結果よ」



 胸を張って得意そうに述べるエルフの女性の向こうには、茂みという規模では収まらないほど広大な山イチゴの「畑」があった。



「こりゃ……人手が()(わけ)だ……」

「一日や二日では採りきれんな……」

「実際に、うちの村でも毎年余らせてるのよ。代々の男たちが、調子に乗って茂みを広げたんだけど……最近じゃ鳥や獣にも好きなだけ食べさせて、それでも余りまくってるのよね……」



 先程までの得意気な様子はどこへやら、溜息を()いて内幕を白状する女性。



「成る程……これならジャムの話は渡りに船だった(わけ)だ……」

「そういう事。さ、どんどん採ってちょうだい」



・・・・・・・・



 亜人(ノンヒューム)たちが広大な山イチゴの「畑」に挑んでいるのと別の場所では、数名の男たちが、やはり女性の獣人に率いられて山の中を進んでいた。どうやら亜人(ノンヒューム)たちの間では、果実などの採集は女性が担当する仕事らしい。



「しかし……山スモモの木立があるとは……」

「元々は木立と言うほど多くなかったみたいだけどね。試しに食べた後の種を埋めていたら、その幾つかが芽を出したんで育てたって事らしいんだよ」

「へぇ……羨ましい話だな」

「けど、うちの村だけじゃ結構持て余しててね。終わり頃は子供たちも食べなくなるのさ。町へ売りに出した事もあったけど、手間の割には上がりが今一つでね。男どもも良い顔をしないのさ」

「だが、山スモモは小さいが赤い色が美しい。酸味が強く甘味は弱いが……」

「砂糖漬けにはもってこい、って(わけ)だ」

「そういう事さ。……けど、何で精霊術師様は態々(わざわざ)山で採れる実を使え、なんて(おっしゃ)ったのかねぇ?」

「あぁ、それな。少しでも珍しい方が、金持ちどもの食い付きが良いだろうという事らしい」

「他にも、珍しい実を使っていた方が有難(ありがた)()が増して、身近な食べ物感が薄れるんじゃないかって狙いもあるらしいな」

「要は特別感を増すための手段だとか」

「他の班では生姜(しょうが)人参(にんじん)などの野菜や、凄いところではメロン丸ごとの砂糖漬けなんかに取り組んでいるらしいぞ?」



 最後の発言は他の面々にも初耳だったらしく、驚きの声が上がる。



「メロン丸ごと!?」

「そりゃ……いくら何でも無茶だろう……」

「本当にできたら掴みはばっちりだろうが……」

「いや。何でも時間をかけたらできなくはないらしい。……(もっと)も、()(つき)ほどはかかるらしいが……」

()(つき)……」

「新年祭に間に合うかどうか微妙だな……」

「ま、我々は我々に任された仕事をするだけだ……あれがそうか?」

「そう、うちの村自慢の山スモモの木立さ」

「良い色に熟れてるな」

「それじゃ、始めようかね」



 獣人の女性の指揮で、亜人(ノンヒューム)の男たちは果実の収穫を始めていった。

メロン丸ごとの砂糖漬けは、フランスのプロヴァンス地方で実際に作られているそうです。濃度の低いシロップから徐々に濃いものに浸していき、水分を糖液に置き換えるのだとか。

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