第百三十章 商品開発 4.飴
新年明けましておめでとうございます。
今年も「従魔のためのダンジョン、コアのためのダンジョン」をよろしくお願いします。
こちらにはエルフや獣人の女性を中心にした大人数が集まっている。
「え~、このチームは飴に取り組んでもらいますが、内容が多岐にわたるため、人数も多くなっています。飴というのは、簡単に言えば砂糖を加熱して溶かしてから固めたものです。その途中で色々なものを加える事で、味や見た目が大きく変わる訳です。と言っても、言葉だけじゃピンと来ないでしょうから、最初に見本を幾つかお見せします」
総責任者らしいエルフの若い男はそう言うと、見本として預かってきたらしい幾つかの飴を丁寧に取り出す。色とりどりのそれらが観覧に供されると、一同から溜息が上がる。総責任者の男はその様子を眺めると、少し待ってから説明を続ける。
「このように、色も形も大きさも様々です。味についても勿論ですが、今回は味より先に見た目の問題に取りかかってもらいます。どういうタイプの飴にするのかが決まれば、味は後から幾らでも調整が効きますから」
総責任者はここで一旦言葉を切る。
「一班は飴の成型……要するに型枠を担当してもらいます。ご覧のように見本の飴の中には、綺麗な円形や三角形、星形、ハート形、ウサギ型など様々な形のものがあります。これらは溶かした飴が冷える前に金型に入れて成型する訳ですが、一個ずつ金型に嵌めていたら切りが無いので、複数の型が並んだ大きな金型を作っておいて、一度に多数作れるようにして下さい。個々の金型は同じ大きさ、同じ形でないと、売り物にした時にトラブルが発生しますので、厳密に同じものにして下さい。それから、型の大きさはここにある飴の実物を参考にして下さい」
口で言うのは簡単だが、中々に面倒な作業になる。金属加工が得意なドワーフが含まれているのは、金型を作る時のためらしい。
「二班には着色料を担当してもらいます。ここにある色とりどりの飴は、それぞれ異なる着色料……言ってみれば食物用の無害な染料を混ぜて作られたものです。花から抽出する場合が多いようですけど、それ以外にも様々な原料から抽出できます。精霊術師様から参考資料を戴いていますから、それを見て検討して下さい。来年、できれば新年祭に間に合わせたいので、時間の猶予はあまりありません。探してもらいたい色は、果物をイメージさせる色――赤、オレンジ、黄、紫、そして緑をお願いします。青については、食欲を減退させる効果があるとかで、優先順位は低いそうです」
こちらの班には錬金術系――あるいは化学系の技術が得意そうな者が多いようだ。男女の比率はほぼ半々と言ったところか。
「色素の抽出に使う溶媒ですが、飲んでも大丈夫な酒精を精霊術師様からお預かりしています……」
……と、総責任者が口にした途端、その場にいたドワーフたちと一部のエルフの目がギラリと光る。
「……が、これはあくまで色素抽出用なので、それ以外の用途には用いないで下さい」
このチームにドワーフがいないのは、そういう事らしい。
「三班には、花を封じ込めた飴を担当してもらいます。と言っても、封入自体はそれ程難しくありません。やって戴きたいのは寧ろ、これに使える食べられる花の選別と採集――これは栽培化を念頭に置いて下さい。既に花の砂糖漬けに取り組んでいる班がありますから、そちらと協力して作業を進めて下さい。花はせいぜい数日しか日保ちがしませんから、使えそうなものが得られればどんどん飴に封入してみて下さい。手順はこちらのメモに載っています。色や味がどの程度保つのかを調べるのもお願いします」
この世界では砂糖がまだ高価な事もあって、飴自体の種類がそれほど多くない。クロウはそこに現代日本の知識で殴り込みを掛け、他に先だって技術を確立させるつもりだった。




