第百三十章 商品開発 3.グラノーラ
ヌガーという菓子を試作して、味はともかく見た目が貴族受けしそうにない事に当惑した班員は、続いて別の試作に移っていた。
「今度は何を作るんだ?」
「待ってくれ……あぁ、これにするか。ヌガーと似たような様式らしいが……」
「おい待て。また地味で華やかさに欠けるものを作るってのか?」
「似たようなものを作った方が、慣れの効果が高いだろう? 道具も材料も無駄にはできん。それに、ヌガーと較べてどうなのかという視点も必要だろう」
一理あるのかないのか能く判らない理由で押し切られ、納得しづらいままに次の試作に移るメンバー。貧乏籤とまでは言わないが、どうにもモチベーションが高まらない。
「……で、何を作るってんだ?」
「ヌガーと少し似てはいるが、別物だな。グラ……グラノオラとかいうものらしい」
グラノーラ。穀物やナッツ、ドライフルーツなどをシロップと混ぜてオーブンで焼いた、菓子と言うよりシリアルに分類される食品である。ただし与えられたレシピは所謂グラノーラ・バーというやつで、棒状に固めたタイプのものらしい。
「……今度は随分と砂糖の量が少ないな」
「それに……これはカラスムギか? 随分と質素な材料じゃないか?」
「こっちは貴族向けというより、一般向けの比重が大きいらしいな」
「というか、これこそ携帯食料だろう」
あれこれ言いながら、砂糖・蜂蜜・バターを混ぜて加熱してシロップを作る。乾煎りしたカラスムギ――別名オート麦――と、砕いたナッツ、刻んだドライフルーツなどを混ぜたものにシロップを加え、万遍なく掻き混ぜたそれを軽く圧し固め、オーブンで焼いていく。
「後は冷まして取り出して切り分けて終わりらしい。数日おいた方が味が馴染む場合もあるとか」
「う~ん……砂糖が少ないせいか、こっちの方が色が薄いな」
「その分だけドライフルーツの色も映えるみたいだが……」
「あの配合だと、菓子と言うほど甘くないんじゃないか?」
「……そうだな。どちらかというと主食か補助食のような扱いらしい」
「砂糖の量が少ないから、値段もそこまで高くならないよな?」
「ますます携帯食料向きだな」
焼き上がってから切り分けたものを試食した彼らの評価は、貴族向けよりは少し余裕のある一般向けではないかというものであった。
「今回は棒状に固めたが、棒状にせず小さな塊にして食べても良いそうだ。ミルクをかけるとまた格別なんだと」
「う~ん……やっぱり菓子というより、少し変わった主食という感じか?」
「珍しい分、貴族連中は飛びつくかもしれんが」
「冷めても食える……というか、トーストする必要が無い上に、その事が貧乏たらしく見えないからな」
「食べ易いというのも利点だろう」
「だが、カラスムギだぞ? 貴族どもは近寄らんのじゃないか?」
「別にカラスムギである必要はあるまい。小麦でも大麦でも好いんじゃないか?」
「それも確認……というか、これって混ぜるものや味付けはいくらでも変えられるんだよな?」
「それを……一々……確かめるのか……?」
地味に大仕事を引き当てた事に引き攣る一同。
「……まぁ、際限無くやる訳にもいかん。良さそうな配合を幾つか試してみる事にしよう」
来年の更新は一月四日からになります。
それでは、良いお年を。




