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第百三十章 商品開発 1.砂糖漬けと香料

本章は砂糖を巡るサイドストーリーになります。七話ほどの予定です。

 クロウから新年祭に出店する許可を得たホルンたちは、直ちに各集落・各部族に対する根回しに移った。亜人(ノンヒューム)として砂糖の製造・販売に関わる方針を改めて確認し、次いでクロウから出された課題に精力的に取り組んだ。そうして一週間ほど経った頃、各地の村々は砂糖菓子の商品開発に向けて動き出していた。


 砂糖漬け用の果実などの選定と試作、そしてシナモンなどの香料探しである。


 シナモンについては、後日クロウが簡単なスケッチとシナモンスティックの実物を送って寄越したが、似たようなものがこちらの森にも生えているらしく、数名が試作に取りかかっている。そして……



・・・・・・・・



「おい……本当にこんなに砂糖を使うのかよ? ……てぇか、使って良いもんなのかよ?」



 柑橘類のような果物と山盛りの砂糖を前にして、引き()った顔で相談しているエルフたち。彼らの受け持ちは柑橘(かんきつ)類の砂糖漬けである。



「う、うむ……しかし、精霊術師様から戴いたメモにはそうあるんだ。……材料によって砂糖の割合も異なるそうだが……」

「けど、黒砂糖じゃなくて上質の白砂糖だぜ? これだけで間違い無く金貨二~三枚は吹っ飛ぶぜ?」

「貴族どもに高値で売り付けるんだそうだが……一応は黒砂糖でも試作するそうだがな。庶民向けに」

「……俺もそっちの班が良かったな……。こっちはどうも心臓に好くねぇや……」

「ぼやいてないでさっさと作るぞ。できあがりを試食して、採用の可否や改良の如何(いかん)を判断しなくちゃならんのだ」

「試食かぁ……ありがてぇような、おっそろしいような……」



 深い溜息を()きながら、柑橘(かんきつ)班の男たちは果実を茹でて水に(さら)し、分量の砂糖を加えて煮詰めるという、手間と注意の必要な作業に取りかかった。


 これから使う事になる砂糖の量に(おのの)きながら。



・・・・・・・・



「メモのとおりに花を摘んできたけど……」

「本当にこれを砂糖漬けにするの?」

「綺麗は綺麗だけど……食べる物じゃないわよね?」

「試しに作ってみろって言われたけど……」

「試しだけで砂糖を使って良いもんなの?」



 こちらの女性たちは、花の砂糖漬けというこれまでに聞いた事も無い――というか、彼女らの視点では狂気じみた――加工品の作製を押し付けられて戸惑っていた。



「これだけで食べる事はあまり無いとか言われたけど……」

「気取った料理の飾りに使うんだって」

「気取ってそのまま食べても良いそうだけど……」

「金持ちの人間が考える事は解らないわよねぇ……」



 地球世界では、オーストリア皇后が愛用したというスミレの花の砂糖漬けが有名だが、その作り方にも幾つかのレシピが存在する。クロウはウィスキーを使うやり方でなく卵白を使うやり方を教えていたが、それにも湯にくぐらす方法とくぐらせない方法の二通りがあるため、較べてみるよう指示していた。



「卵をこんな事に使って良いのかしら……」

「黄身の部分は使わないから良いんじゃない?」

「けど、綺麗にできあがるのが一番大事だそうだから、花を潰したりはできないし……」

「結構面倒よね、これ……」



 リーダーの女性が一つ溜息を()いて指示を出す。



「ここでこうしていても始まらないし、とにかくやってみましょう」



・・・・・・・・



「茶や酒に混ぜて香りの良い木なぁ……」



 頭を(ひね)りつつ山の中を歩いているのは獣人の男たちである。嗅覚の鋭い獣人の方が探すのに向いているだろうと、この仕事を押し付けられたのである。


 確かに嗅覚が鋭いのは否定しないが、茶や酒に混ぜて相性が良いかどうかは、嗅覚の優劣とは別じゃないかと思わないでもない。しかし、事は亜人(ノンヒューム)が世に出るかどうかに関わってくるとあって、彼らにしても(いな)やは無かった。



「一応、シナ……シナモンとかいうのは嗅がせてもらったが……」

「虫除けに使ってるやつだよな?」

「虫除けを食いもんに混ぜるなんて、考えた事も無かったからなぁ……」



 文化の隔たりは大きいようである。



「けど、まぁ、悪い匂いじゃなかったよな?」

「あぁ……確かにな」

「温めたワインに使ってみた者の話じゃ、ちょっと変わった風味になって、悪くないそうだ」

「シナモンとかはそれで良いらしいが、他にも似たようなものを探せというのがなぁ……」

「匂いがあるのが葉か、花か、蕾か、実か、皮か、それとも根か判らんというんだからなぁ……」

「まぁ……全体的にそれっぽい香りはするらしいから……それを頼みに探すしかないだろう」

「あぁ……だから俺たち獣人にこの仕事が廻ってきたのか」



 ぼやきながらも道々で注意深く匂いを探っていく獣人たち。彼らの働きでそれまで知られていなかった香料が世に出るのは、もう少し先の事である。



・・・・・・・・



「本当にこんなものを砂糖漬けにするの?」

「というか、お菓子になるの? 本当に?」



 野菜(・・)の山を前に、困惑した様子でそう発言する女性たち。



「精霊術師様のメモにはそうあるのよ。味覚の違いもあるから受けるかどうかは判らない……って書いてあるけど、一応は確かめてみないと駄目でしょう?」



 噛んで含めるように言い聞かせているエルフの女性は、やや立場が上らしい。長命種のエルフは年齢が判りづらいが、ひょっとすると年長なのかもしれない。



「薄めに切ったものを砂糖水で煮て、その後で砂糖に漬け込むらしいわ。野菜から出てきた汁で砂糖が溶けていたら、その都度(つど)砂糖を追加して、三日ほど経ってから乾燥させてできあがりらしいわね」

「あ……結構手間がかかるんだ」

「砂糖の量も凄い事になりそうね……」

「メロンの丸ごとを砂糖漬けにした場合は()(つき)ほどかかるそうよ? それに較べたら早いものよ」

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