第百二十九章 亜人連絡会議事務局 6.綿菓子機
新年祭の演し物として綿菓子を提案したクロウだが、その発端は従魔たちとの会話にあった。遡って五月祭での出店の件を従魔たちと話してい時の事、キーンが投げかけてきた質問がきっかけであった。
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『マスター、いつか食べさせてくれた綿菓子っていうの、出さないんですかぁ?』
綿菓子か……。確かに日本では祭りの定番なんだが……はたしてこっちでも売れるもんか? 抑、食べ物かどうかすら判らないんじゃないか?
『確かに……アレは説明しづらいですよね』
『作っている……現場を……見せてこそ……という部分も……ありますし』
確かにな。綿菓子や飴細工は目の前で作ってこそだよな。
『飴細工、って、何ですか? マスター』
『軟らかくした飴で動物なんかの形を作って売るんだ。……期待しているところを悪いが、俺は作り方なんか知らんからな、キーン』
今度縁日で見かけたら、買っておいてやろう……。
『確かに。映像で見せて戴きましたが、あの綿菓子ができていく様子は見物でしたな。ご主人様の世界には魔法が無いとの仰せでしたが、あれは魔法にも劣らぬ見物でございました』
だろ? 俺も子供の頃は食い入るように見た憶えがある。自分でも作ってみたくてな。
『あの機械は作れなくもないらしいが……』
作り方とかがネットに載っていた気がするな。
結局、この忙しい時期にそこまで手を広げている暇は無いという事で、その場はお流れになったのであったが……新年祭で再び演し物をやる可能性に思い至った時に、直ぐに頭に浮かんだのがこの時の遣り取りだったのである。
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そして今、クロウはネットで調べた情報を元に、綿菓子機を作ろうと奮闘しているのであった。
「向こうの世界じゃ電気なんかは使えんから……やっぱり魔道具を使うしかないか」
綿菓子機の基本的な構造は単純である。側面に小さな孔が幾つかか開いた回転釜に、原料となるザラメすなわち白双糖を入れる。回転釜を加熱しながら高速で回転させると、釜の側面の孔から、融けた白双糖が遠心力で吹き出してくる。すぐに空気中で冷やされて細い繊維状になるので、それを割り箸で絡め取ってやれば良い。
「高速で回転する仕組みが必要になるな……」
魔道具の設計はあまり得意でないクロウだが、幸いに要求される機能が比較的簡単なので、何とか形にする事ができそうであった。
尤も……
「あぁ……屋外で使うから、できた綿菓子が風で飛ばされないようにしないと駄目か……ビニールの覆いなんか付けられんし、ガラスはもっと駄目だろうな……。仕方がない、魔力で風を抑える仕組みを付け足そう……」
などと、予定外のギミックまで追加する羽目になっていたが。
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クロウがホルンたちから砂糖販売の件について相談を受けてから、言い換えると来年の新年祭で砂糖菓子の販売を提案してから二週間後、クロウと従魔たちは魔道具タイプの綿菓子機の試作品を前にしていた。
『これが、その道具なんですか? マスター?』
キラキラ光る眼で綿菓子機の試作品を見つめているのはキーンである。
『一応な。材料の白双糖は、とりあえず俺の世界から持って来たものを使ってみる』
『……問題のある……効果は……ついて……いませんか?』
『まっ先に確かめた。幸いにして「異世界」がどうとかいう文言は無かったな』
できあがりを見てみないと判らんがと言いながら、クロウは白双糖を綿菓子機にセットする。やがて流れ出てきた白い綿状の砂糖を、手際良く割り箸に絡めていく。
『わ、わ、わわー』
『ほぉぉ……』
『わぁぁ……』
できあがってくる綿菓子を、キラキラとした目で見つめる従魔たち。
『こんな道具を作ったのは初めてだから不安だったが、とりあえずは成功したな』
首尾良く第一関門を通過した事で、ややほっとした様子のクロウ。
『第一……関門……ですか……?』
『あぁ。一回作れただけじゃ話にならん。新年祭で使う以上、朝から晩まで動かしっ放しの作りっ放しになる筈だ。連続運転でも壊れないかどうかを見極めなくちゃならんし、その上で更に予備機を持って行く必要がある』
一日に一台潰すつもりでいた方が良いだろうな。
『大変なんですねぇ、主様』
『今度も前と同じ三ヵ所でやるんですか?』
『いや、ホルンたちにも言ったが、今回はマナステラにも店を出さんと拙いだろう。セルマインとやらは、マナステラの商人らしいしな』
『そういたしますと……最低でも四ヵ所でございますか?』
『マナステラで一ヵ所だけというのは拙いだろう。少なくとも、合計五ヵ所で開催する必要があるだろうな』
『そうしますと……五ヵ所で……五日間……ですから……』
『予備機を含めて二十台から三十台は必要だろうな』
『うわぁ……』
『大変ですぅ』
『俺一人ではやってられんからな。組み立てとかはオドラントにいる連中に手伝わせるさ。ついでに味見もしてもらおう』
『甘党のペーターさんが喜びそうですね』




