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第百二十九章 亜人連絡会議事務局 4.砂糖キャンペーン(その4)

「で……さっき(おっしゃ)ってやした()し物の件なんですが……」



 クロウの説明が一段落付いたと判断したダイムが、先ほどクロウが漏らしたセールスプロモーションの事に話を戻す。余程に気になっているらしい。



「あぁ……まだ上手くやれるかどうか判らんのだが……」



 そう言いながら、クロウが荷袋から取り出した……ように見せて亜空間から取り出したのは、偶々(たまたま)近くのコンビニで売っていた綿菓子である。自作する場合、原料はザラメすなわち白双(しろざら)糖(白粗(しろざら)糖とも書く)を用いる。その理由としては、結晶の粒が大きいので綿菓子機が目詰まりを起こしにくい事、融点が低い事、加熱しても炭化しにくい事などが挙げられている。クロウとしてはお祭りだけの販売であり、原料の白双(しろざら)糖は最悪日本から持ち込んでも構わないと考えている……妙な効果さえ付かなければであるが。



 綿菓子を賞味する事になった三名の反応は見物であった。


 以前に従魔たちに食べさせた時と、ほぼ同じ反応が返ってきたのである。



「な、何ですかっ、これは!?」

「食べた感じがしねぇのに……」

「甘い味だけはしっかり残っている……これは一体……」

「面白い食べ物だろう?」



 クロウの言葉に三人が揃って(うなず)いた。



「あの……これは一体……」

「綿菓子、あるいは綿飴といってな、ほぼ砂糖だけでできてる」

「砂糖か……」

「言われてみれば……」

「時間が経つと溶けたように(しぼ)むんでな、作ったら間を置かずに売るのが基本だ」

「間を置かず? ……つまり」

「ああ。客の目の前でこの綿菓子を作ってその場で売る……結構見ていて面白いぞ。見物だけでも客は寄って来るんじゃないかと思うがな」



 クロウの言葉にう~むと(うな)って考え込む三人。



「あの……こいつぁ何か特別な魔術か何かが……」

「いや? 少し特別な道具が必要だが、それさえあれば、ダイム、お前にも作れるぞ?」

「マジですかい!?」



 種族がら魔力の少ない獣人のダイムが食い付いた。



「嘘なもんか。ただ……専用の道具を上手く作れるかどうかが……こればっかりはやってみないと判らんからな」



 少しだけ躊躇(ためら)いを見せるクロウに向かって、恐る恐るという感じでトウバが(たず)ねる。



「あの……その道具というのは難しいものなんでしょうか? 魔道具でしたら我々にも少しは作れますが……?」

「いや……元々が魔道具でないからこそ難しいんだ。俺の国の技術でな。ここにはその技術が無いから、それをここでも使えるように作り直さなきゃならん。トウバの申し出はありがたいが、俺にしかできんだろう」



 ははぁと恐縮した様子の三人。



「ま、それはこちらで試してみるし、解らない事があればトウバたちに協力を頼む。できなくても、五月祭と同じくティースタンドをやれば済む事だし、とりあえず人手を集めておいてもらえるか」

「承知しました。ところで……あの……」

「うん? 何だ?」

「酒場の方は如何(いかが)いたしましょうか?」

 そっちかぁ……


「いや、如何(いかが)もなにも、ビールは新年祭に間に合うのか? 第一、冬の屋台で冷えたビールを出しても売れんだろう。暖かい部屋で呑むならともかく」


 そう口に出した時、ふいと思い出した事があった。確か……大学の頃に仲間と呑んだ事があったよな……。


「……エールやワインを温めて飲む飲み方があったな、そう言えば」


 ホット・ウィスキーやホット・バタード・ラムも定番だが、こっちには確か蒸溜酒が無かったな。余計な事は言わないでおこう。


「あぁ……聞いた事があります」

「けど、ありゃあただ温めただけでしょう? それほど美味いもんじゃねぇと思いますが?」

「いや、温めるだけじゃ……あぁ、ひょっとして、シナモンやクローブなどで香りを付けたり、エールだと砂糖を加えたりしていないのか?」



 そう言うと、三人はまごついたような表情を浮かべた。



「済みません……砂糖はともかく、その……シナンとかは一体……?」

「シナモン、だな。こっちの国じゃ何と言うのか知らんが……芳香のある樹木で……こう、少し厚めの丸みのある葉をつける……傷付けると匂いがする……上手く説明できんな……」

「……何となく似たような木には幾つか憶えがありますが……それをどうするんですか?」

「あぁ、若木の皮を剥いでくるくると巻いて棒状にして、飲む前にそれで掻き混ぜて香りを付けるんだ。酒だけじゃなく、紅茶に使ったりもするぞ」

「クローブというのは?」

「確か……これも木の……(つぼみ)を乾燥させたものだったかな? 俺の国だと暑い地域に生えていたんだが……要はシナモンにしろクローブにしろ、こっちにある香草や香木で相性の良さそうなものを使えば良いんだ」

「成る程……香りの事は考えていませんでした。多分人間たちも知らないと思いますから、これも候補に入れたいんですが」

「俺は構わんが……売れるかな?」

「確かに……酒として売るとなると微妙な気がしますが……」

「単に身体の温まる飲み物として売る分には問題無いと思います」

 甘酒みたいなもんか。


「なら、他にも温めたハーブティーなんかも売るか?」

「お許し戴ければ、そうしたいと思います」


 ふむ。新鮮な卵と牛乳があればエッグノッグも作れるんだが……こっちでは入手が難しいかもしれんな。



「やるとしても人手は大丈夫か? 今度はイラストリアだけじゃなくて、マナステラの新年祭にも出店する必要がある筈だぞ?」

「え? マナステラ?」

「あ……そうか。砂糖の販売だから……」

「セルマインの本拠であるマナステラを無視はできんのか……」

「そういう事だ。人員と制服の手配をしなきゃならんが、それができるのなら俺としては反対する理由は無いな」

「……持ち帰って検討してみます」

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