第百二十九章 亜人連絡会議事務局 3.砂糖キャンペーン(その3)
「ふむ……お前たちの言うとおりなら、黒砂糖の販売は何とかなるかもしれんか……宣伝用の演し物については考える必要があるが……」
「ティースタンドじゃいけねぇんで?」
「真冬に清涼飲料は、客の入りが悪いだろう。ホットにすれば良いかもしれんが、そうすると猫舌の客には敷居が高いし、何より同じ事ばかりやってちゃ、客の食い付きも悪かろう」
「……何をお考えで?」
「ま、それは後だ。それより気になったのは、黒砂糖の販売が上手くいったとしても、それを白砂糖に上手く結びつける事ができるのか?」
クロウが疑問を呈すると、ホルンが困ったような顔付きで答える。
「セルマインもそれは気にしていました。お預かりした砂糖は何れも高品質なのが売りですが、セルマインの言うには、品質を気にするような客は値段を気にせず、値段を気にする客は品質は二の次なのだとか」
「ついでに言うと、高品質の舶来糖を買っているような金持ちは、舶来糖という銘柄を買っている訳だからな。ぽっと出の俺たちがどれだけ高品質を謳おうと、洟も引っかけんだろうよ」
「セルマインもそれを気にしていましたが……」
「だから、砂糖ではない別のものとして売り出す必要がある訳だ」
「「「はぁ?」」」
何やら算段がありそうなクロウの態度に安堵と感心を覚えつつ、同時に何を言っているのか解らないが故の不安を感じつつ、三人の声が重なった。
クロウが最初に考えたのは、所謂スイーツを売りにしてはどうかというものであった。異世界ラノベのあるあるネタである。
しかし、よく考えればケーキの類は、砂糖以外にも牛乳や卵、無塩バター、できればチョコレートなども必要になり、材料の入手が面倒である。なにより、この手の菓子類の作り方に明るい亜人がいるかどうか、いない場合は短期間に技術を叩き込む事ができるかどうか。クロウ自身、この手のスキルは持っていないのだ。
そう考えたクロウは、上質の白砂糖を使いつつ、亜人たちが作っていても不自然でないものを幾つか思いついていた。
「お前たち、砂糖漬けというのを知ってるか?」
色取り取りの果実や野菜、場合によっては花などを材料にした砂糖漬けは、そのカラフルで美しい見た目と、多量の砂糖を使うという製法とが相俟って、地球でも長らく貴族や富裕層の嗜好品とされていた。砂糖自体が高級品扱いされているこの世界では、砂糖漬けは充分に訴求力のある商品となるだろうと考えたのだ。詳細なノウハウは知らないとはいえ、レシピなら日本に戻れば幾らでも手に入る。
「「「砂糖漬け!?」」……ですか?」
案の定この世界には――少なくともこの大陸には――砂糖漬けは無いようであった。クロウが見本にと持参した砂糖漬けの数々に、ホルンたち三名はすっかり魅了されている。……目敏くも見つけたキーンの食い付きが凄まじかった事から予想はしていたが。
「こちらの世界……いや、大陸に砂糖漬けが無いのなら、見た目の美しさと珍しさで、金持ちどもの気を引けるだろう。押し並べて、目新しいものには飛びつく連中だからな」
「確かに……これをどうするおつもりで?」
「セルマインとやらはマナステラに店を持っているんだったな? だったらそこと……イラストリアの王都あたりに店を出してもらおう。そこで扱わせれば良い。……白砂糖と一緒にな」
「……てぇと……黒砂糖もそこで売るんですかぃ?」
「いや。金持ちどもが優越感に浸って訪れる店に、庶民が黒砂糖を買いに来るのは受けないだろう。黒砂糖の方は別の店を出すか……いっそ祭限定の出張販売にでもする手もあるな」
「出張販売……ですか?」
「あぁ。祭限定の特別価格という触れ込みなら、黒砂糖の値段をもう少し下げても良いかもしれん。少なくとも当面は祭の時限定という事にすれば、常設の販売店を準備する手間も省けるしな」




