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第百二十九章 亜人連絡会議事務局 2.砂糖キャンペーン(その2)

 クロウがズバリと指摘してみせると、ホルンは一つ深い溜息を()いた。



「やはりお気付きでしたか……はい、セルマインはそれを打診してきたのです」

「確かに選択肢の一つではある。しかし、砂糖を使った飲み物で客を集める事はできても、そこからどうやって砂糖の販売に繋げるというんだ?」

「前回も砂糖の販売について()いてくる者はそこそこいましたから。値段次第では買っていくのではないかと」

「しかし、飲み物に添えて出したのは白砂糖、セルマインの計画では売るのは黒砂糖だろう? 飲み物の値段と黒砂糖の値段の食い違いを説明しなきゃならんぞ?」

「あ……それは……確かにそうですね」



 ティースタンドで提供した砂糖は茶匙(ティースプーン)一杯だから、大体三~五グラム。テオドラムの「上質糖」なら、それだけで銀貨一枚~一枚半以上の値段になる。それを飲み物込みで半銀貨一枚で売ったのだ。仮に黒砂糖をテオドラムの半値で売ったとしても、まだ割高に思える値段である。



「……まぁ、白砂糖についてはお祭りの特別価格だとして言い抜けるしかないが……黒砂糖はなぜ特別価格にしないのかと聞かれたら……その時は」

「……その時は?」

「いずれ販売する予定の値段で先行販売していると説明するしかないだろう。だが、本当に良いのか? 亜人(ノンヒューム)が近いうちに砂糖を販売すると明言する事になるんだぞ?」



 ここで勝負札を切って良いのかと念を押すクロウに、ホルンたち三人は黙り込む。



「まぁ、お前たちの一存で決められる事ではないだろうから、ここはそうすると仮定して話を進めよう。というか、そうした場合に何が起きるかの想定だな」

「……はい。それでお願いします」



 緊張した様子のホルンたちを見ながら、クロウは更なる爆弾発言を続ける。



「まぁな、実際問題として、テオドラムの価格の半値以下で売っても、恐らくは充分元が取れる筈だ。これは、砂糖の製造をお前たちに委託した場合でも同じ筈だ」



 しれっと言ってのけたクロウにホルンたちはしばしポカンとしていたが、発言の意味が飲み込めると、困惑を隠せないようであった。



「あの……それはどういう?」

「恐らくテオドラムが付けた砂糖の値段は、舶来糖の値段を基準にしている。その舶来糖は、他所(よそ)の大陸から船で運んで来る(わけ)だから、その分の輸送費と人件費が物凄い事になっている筈だ。原産地での販売価格の五倍、下手をすると十倍以上になっていても驚かんぞ」



 クロウの指摘は正鵠(せいこく)を射ていた。こちらの大陸に運び込まれた時点で、砂糖の価格は現地での十倍以上に高騰していたのである。輸送費・人件費だけでなく、船の難破や海賊のリスク、モンスターによる被害なども価格に上乗せせざるを得ないが故の宿命であった。



「……あの……という事は……?」

「少なくとも輸送費その他を考える必要の無いテオドラムは、十倍以上の暴利を貪っているという事だ。だから、仮に俺たちがテオドラムの半値で売り出しても、本来の価格の五倍で売る事になる。充分暴利と言える値段だな」



 ここでクロウは一旦言葉を切ったが、三人の顔を見回して再び続ける。



「しかし、実際問題として俺たちが半値で売り出す事はできん。そんな事をしたら買い手が殺到して、砂糖はあっという間に底を突く。売り惜しみをしていると勘ぐられて、最悪は暴動に発展するかもしれん。……つまり、需要に応じ得るだけの生産力が伴わない限り、本来の価格で売る事などできんのだ。……まぁ、二割か……できても三割安い値を付けるのが限界だろう」



 クロウの説明に納得した様子の三人。



「という事で、白砂糖を客引きに使う場合、黒砂糖が白砂糖より割高に見える事は避けられん。思ったより食い付きが悪いかもしれんぞ?」

「いやぁ、そりゃどうですかね」



 クロウの懸念に対する反論は、意外にもダイムの口から上がった。



「客引きは客引きとして、黒砂糖が手頃な値段で売ってるんなら、買いたいってやつは多いと思いますぜ。味を確かめさせる必要はあるでしょうが。それに……精霊術師様が(おっしゃ)ったような面倒な計算をするやつぁ少ないと思いますぜ」

「いや……面倒なって……ただの比例計算だぞ? 割り算と掛け算ぐらい……」

「できない者が多いのです」



 きっぱりと言い切るホルン。クロウは現代日本の教育水準で考えているが、これは現地人たちの意見が正しい。



「しかし……ターゲットである富裕な市民層は、これくらいの計算はできるだろう?」

「ターゲットである富裕な市民層は現実派ですから、テオドラムの砂糖よりも安い事を重視すると思いますよ」

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