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第百二十九章 亜人連絡会議事務局 1.砂糖キャンペーン(その1)

 話は()(つき)ほど前に遡る。



『セルマイン?』

 ……誰だ? それ?


『はい。砂糖の販売ルート構築について任せていた者ですが、予想外の事が起きて難航しているようです。つきましては、できれば早めにお知恵をお借りしたいのですが』

 ……あぁ、砂糖の件か。確かに重要な戦略物資だな。


『解った。エルギンの事務局に行けば良いのか? 今なら丁度手空(てす)きだし、五日以内に行けると思うが』

『かしこまりました。お待ちしています』



「災厄の岩窟」にテオドラムの冒険者が侵入した三日後の事だった。



・・・・・・・・



 ホルンから連絡を受けて三日目、クロウはエルギンにある亜人連絡会議事務局を訪れていた。



「さて、一体どういう事になっている?」

「はい。セルマインからの連絡では、テオドラムがマーカスと国境を挟んでややこしい事態に陥っているため、ターゲットとしていた市民層の消費が冷え込んでおり、販売網の構築が進まないとの事です」

 うわ、俺たちが原因か。


「その、セルマインという商人は、ターゲットを市民層に定めたのか?」

「えぇと、ですね……」



 ホルンはそう言うと、手元のメモを取り出して、あれでもないこれでもないと探し始めた。



「済みません。色々とややこしい話になっていまして……。まずですね、お預かりした砂糖はどれもこれも高品質、舶来糖に勝るとも劣らない品質だそうです。ところが、テオドラムに打撃を与えるという目的を考えると、販売価格はテオドラムの砂糖と同じか少し安い価格帯に設定する必要があるそうで、そうするとどうやっても舶来糖の流通網に影響を及ぼす事になるそうでして」

 あぃた~……品質と希望価格に齟齬(そご)があったか……


「……まぁ、砂糖を専門に扱っている商人はいないとかで、舶来糖の流通網が多少混乱しても、致命的な打撃を被る者はいないだろうと言っていました。それよりも、ある程度低価格の砂糖を流して潜在需要を掘り起こした方が、長い目で見れば舶来糖の業者にも好い結果を与えるのではないかと考えたようです」

「成る程……セルマインというのは中々に優秀な商人らしいな」

「エルフの中では変わり種ではありますが、優秀な事は間違いありません」

「……ちょっと待て、そいつはエルフなのか?」

「……言っていませんでしたか? 申し訳ありません。エルフの男です」

「いや……それは良いんだが……で、セルマインはどういう手を考えていたんだ?」



 クロウからの質問に対して、再びメモに目を落とすホルン。



「えぇと……最上級の白砂糖については、これは高級品として売るしかないと決めて、それ以外の砂糖を裕福な市民層に売ろうとしたようです。ところが、昨日お話ししたような次第で市民層の消費が冷え込み……」

「苦戦している(わけ)か……」

「はい。冒険者ギルドに卸す事も考えたそうですが、市場に与える混乱が予想できないとして中止したそうです」

「冒険者ギルド……非常食として売ろうとしたのか」

 悪くないアイデアだが……


「えぇ。しかし冒険者が小遣い稼ぎに転売するのは間違い無く、値段が混乱する事を懸念したようです」

「成る程。妥当な判断だと俺も思う」

「それで……セルマインが言うには、現状では最も安い黒砂糖を市民層に販売して、まず砂糖に関する関心を高める事から取りかかりたいと言っているのですが……」

「ふむ……悪い判断じゃない。しかし……」

「はい。砂糖に対する関心を高める有効な手だてが思いつかないそうでして……」

「単にセルマイン個人が売り出しただけだと、同業者からや、下手をするとテオドラムからの追及を受けるだけだな。ある程度の規模のグループで売り出して、追及を跳ね返して見せる必要がある。連絡会議の名前をそのために使って好いかどうか打診が来たか」

「はい。それに、砂糖の存在を宣伝する方法も……」

「遠慮せずに言ったらどうだ? ホルン」

「は?」

「新年祭でもう一度ティースタンドを開きたい、そう言いたいんじゃないのか?」

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