第百二十七章 マーカス 3.国境監視部隊(その3)
「水の問題が鍵とはどういう事だ? 一個中隊の増援自体が、水問題の解決無くしてはあり得んのではないのか?」
「いえ、最悪の場合、水は他所から運び込む事ができます。今回の増援が何らかの目的のためだとしたら、水問題の如何に拘わらず増援されたでしょう」
「ほう……先を続けろ」
「はい。テオドラム兵がダンジョンから水を運び出しているのは、既に何度か確認されています」
「兵士どもがえっちらおっちら担ぎ出していたな。御苦労な事だ」
「……今回の増援が水不足の解決を契機としてなされたとすると、何か特別の目的あっての事と言うよりも、単純な戦力増強のためかもしれません。というより今の状況こそが、テオドラムが本来企図していた兵力配置なのかもしれません」
「……本来ならここに二個中隊以上を配備したかったが、水の問題もあって断念していた。そこへ水源が発見されたため、本来計画していた戦力を配備した、と言うのか?」
「違うでしょうか?」
意表を衝いた副官の分析に、ファイドル代将は考え込む。この分析が正しいとすると、テオドラムは早い時期からここに二個中隊以上の戦力を配備するつもりだった事になる。しかし、ここにダンジョンが現れたのは、やつらにも予想外だった筈。……とすると、テオドラムが予定していたのは「国境付近に二個中隊以上の戦力を配備する事」、すなわち侵攻拠点の作成か……?
穏やかならざる結論に代将も緊張を隠せない。だが……
「ダンジョンなら確かに侵攻拠点として使えるだろう……安全が確認されていればの話だが。少なくとも短期的な拠点とはなり得る。それは良い。だが、ダンジョンなら我々の側にも……いや、そうか。それだからこその増援か」
「はい。テオドラムとしては、我々が同じような事を考えて実行するのを何よりも恐れていた筈です。彼の国は目下我が国だけでなくモルヴァニアやイラストリアともおかしな事になっていますから、ここで戦端を開かれるのは避けたかった筈です。そこで、抑止という意図もあって、大慌てで配備計画を立てたところで、水不足が祟って先行しての配備が困難と判明した」
「多少であれ水源が確保できた今、急いで増援を行なった、か……」
「そう考えれば、今回送り込まれてきたのが歩兵中隊である事も納得できます」
「侵攻のための兵力でなく、防衛あるいは牽制のための兵力か。とは言え……」
「はい。国境付近に布陣する我々を襲うには充分な兵力でもあります」
「だが、仮に今我々を攻撃しても、我々がダンジョン内に潜り込んで抵抗したら長期戦にならざるを得ん。それ以前に、ここでイザコザなど起こしたら、あのダンジョンマスターが黙ってはいまい」
「ええ。ですからこの場所で戦端を開く事はしない筈です」
「だが、ここを拠点として侵攻部隊を送り込んでくる可能性は残るか……」
「このまま彼らの拠点強化を看過していれば、あるいは」
眉間に皺を寄せて考え込んでいた代将は、やがてお手上げというような表情で顔を上げた。
「ここまで話が大きくなると、一介の前線基地ではどうにもできん。貴様の仮説を添えた上で、この件は上の方に報告しよう」
「それでは……」
「あぁ。テオドラムの増援に対処すべく、ここにもそれと同等の増援を寄越せとな」




