挿 話 エッジ村ファッション事情~五月祭への備え~(その1)
二回ほど挿話になります。
話は夏祭り直後にまで遡る。
「……手の空いた者で地道に作っていって、冬の間に農閑期で手空きになった者を増援に加えて、一気に数を増やすしか無いでしょう……」
「……んだなぁ……」
村の主立った者たちにクロウを加えた面々が話し合っているのは、染め物とアクセサリー生産の年間計画である。なぜまたそんな計画を立てる羽目になったのかというと……夏祭りの時、購入制限のせいで――本人が勝手に――予定していた数を買えなかった客に、物凄い剣幕で詰め寄られたのが原因であった。翌年の五月祭で再び販売する事を――その場の勢いで――約束させられたのである。……そうでもしないと暴動が起きそうな気配だったので。
その場を収めるためとは言え、一旦約束した以上は、然るべき用意を整えねばならない。が、問題なのは……
「けんど……もぅ売るもんが無ぇっぺよ……」
「んだ、すっからかんだぁ」
夏祭りに備えてスカーフもアクセサリーも増産していたというのに、その全てが売り切れた。終いには村人の私物まで提供して、何とか乗り切ったのである。
夏祭りは一日だけ。五月祭は三日間。
しかも、夏祭りでは近在の者しか来ていなかったが、三日間もある五月祭には遠方からも客が来ると予想される。
夏祭りでさえぎりぎりだったものを、その三倍以上の量を、十ヵ月で用意する事ができるのか。しかも農作業の合間に。
「五月祭までぁ十月。夏祭りん時ぁ二月で何とかできただけんど……」
「今度ぁ三日分だでよ……」
「それに……間違い無く客の数も多いっぺよ……」
「どう考えてもギリギリですよね……」
もはや、農作業の片手間程度でどうにかなるような需要ではない。エッジ村の労働力を総動員してでも、客たちの要求に応えねばならない。下手をすると買いそびれた客が暴徒化して、エッジ村を襲う可能性すら……
「いや、まぁ、そこまではいかないと思いますが……領主も座視してはいないでしょうし」
「けんど、放って置く訳にもいかねぇべ?」
斯くして、エッジ村第二次産業改革計画が幕を開けたのである。
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「まずは人員の確保ですね。農作業に関わらない年寄りや子供さんたちに……」
「んだな。夏祭りん時の連中に、ものづくりに回ってもらうべ」
「大桶も買い足しておいた方が好ぇだな」
「媒染用の明礬とかも要るだに」
遊休人員の活用で収穫までの間に製品を作製して、収穫後から冬の間はそれこそ村人総出で売り物を作り溜めするしかないだろう。一つ懸念があるとすれば……
「けんど、クロウさぁ、冬っつったら寒いべ? 染め物ぁ大丈夫だか?」
「室内でやれば、できなくはないと思いますけど……所要時間や染まり具合に差が出てくる可能性はありますね」
「それも踏まえた上でやるしかねぇべよ」
「それと……夏祭りの時の人数ならミルドレッドさんの家でも何とかなるでしょうけど……」
「あぁ……村人総出となると、別に作業場が要るべか」
「ま、そらぁこっちで何とかするだ」
人手と場所の問題に何とか目処が付いたところで、次は材料の問題である。
「……もう、染め物用の布は残ってませんよね?」
「んだ。夏祭り用に仕入れた分は、すっかり無くなっちまっただ」
染め物班リーダーのミルドレッド女史の慧眼により、夏祭り用の布素材は早い時期に入手できていた。村にやって来る行商人に頼んで仕入れてもらったのである。
「ただ、次は数が数ですからね。エルギンの商人から仕入れる手もありますが?」
領主としてはそっちの方を望むだろう。これは領主もしくは代官と相談した方が良いのじゃないかとクロウは思っていたが、
「けんど……やっぱり気心の知れた相手の方が良いで」
という事で、引き続き馴染みの行商人に頼む事に決まった。一人では賄いきれないと言うのなら、彼に増員の手配を任せれば済む事だ。
布の手配について決まったなら、次は丸玉の方である。




