第百二十二章 勇者の訃報 4.イラストリア王国 国王執務室
「説明してもらうぞ、イシャライア」
ギロリとローバー将軍を睨んで説明を要求したのは宰相。将軍の又従兄であり、子供の時から利かん気の又従弟には面倒を掛けられてばかりであった。
自分を睨む又従兄の視線に少しばかり首を竦めたものの、これは自分のせいじゃないと開き直る将軍。しかし……
「モローの問題は全て第一大隊の管轄じゃろうが。このややこしい時期に、何で儂らを巻き込んだ?」
第一大隊の職掌は王都の防衛である。いつの間にモローの世話まで追加されたのか。
「エルギンのギルドマスターは、お主の一味じゃろうが」
それだけで充分な理由になると言いたげだが、今回はこちらも巻き込まれた側だ。
「……ローバー、ともかく事情を説明してくれんか?」
さすがに見かねた国王が割って入り、ようやく話が進み出す。ちなみに、ウォーレン卿はここまで一言も発していない。珍しく気楽な傍観者の立場を愉しんでいた。
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「……ふむ、要するに勇者が死因を明らかにしておらぬのが悪いのじゃな」
責任は全て勇者にあると断罪しそうな口調の宰相。……少し疲れが溜まっているのか?
「そうは言っても、ダンジョン内で死んじまったら、通常屍体はダンジョンに吸収されて残りませんからね。確定なんざできませんや」
「先代勇者……既に先々代かもしれぬが、その屍体はアンデッドとなって蘇ったと聞いたぞ?」
「だから、通常って言ったでしょうが。あのダンジョンはⅩ謹製ですぜ?」
「通常」の範疇には入らない事を指摘するローバー将軍。
「それはともかく、ダンジョン以外の何かが勇者を斃した可能性があり、それを調査したいとの言い分なのだな? 彼らが自力で調査せぬ理由は?」
疲れているのか暴走気味の宰相を抑えて、討議をコントロールしようと懸命な国王。これも珍しい光景である。
「一言で云やぁ、冒険者どもがブルっちまったようなんで」
「何と腑甲斐無き者どもよ」
……どうも本日の宰相は攻撃的である。迂闊に相手をしない方が賢明かもしれない。
「……冒険者たちの腰が引けているなら、言い出しっぺは誰なのだ?」
「そやつらの名を挙げよ、イシャライア。儂が直々に喝破して…「名前は挙げてありませんや。ただ、どうやら地元の連中から泣きが入ったようですな」」
「泣きが入ったとな?」
問題発言に発展しそうな宰相の台詞に押し被せるように言葉を継ぐローバー将軍。その流れに乗ろうと間髪を入れずに問いを発する国王。士官学校の悪友同士だっただけに、このあたりの呼吸は阿吽の域に入っている。
「モローの町が寂れてたなぁ陛下もご存じでしょう? ところがシャルドの遺跡がめっかったもんで、観光客がちらほらとあの街道を通るようになって、モローも息を吹き返しかけてたんでさぁ。ところが、それに冷や水を浴びせかけるような勇者の死亡案件です。ダンジョンの中でくたばったんならまだしも、外で襲われた可能性があるんなら、折角復活しかけたモローの町がまたぞろ寂れかねないってんで、住人たちも必死なんでさぁ」
ダールとクルシャンクが聞き込んできた内容を加味して、内幕を説明するローバー将軍。成る程、事が内政に関わってくるとあっては、軍が単独で判断するのは色々と差し障りがある。縄張りを荒らされて腹を立てる者はどこにでもいるのだ。体裁だけでも上からの指示という事にしておかないと、後々禍根を残しかねない。
「事情は解った。Ⅹが絡んでおるのが不安要素ではあるが、ダンジョンの外を調べるのなら問題は無いと思うが?」
本日初めて意見を求められたウォーレン卿が、国王の質問に答えて発言する。
「バレンの冒険者ギルドのギルドマスターも言っていますが、あの辺りで何かの気配を感じたという報告は上がっていません。勇者一行はダンジョン内で斃れたというのは整合的な推定です。である以上、ダンジョンの外を調査してもⅩの逆鱗に触れる危険性は小さいと思いますが、それでも、事情を知らない冒険者に任せるよりは、自分たちが調べる方が無難でしょう」
「実際の調査だけでなく、住民たちの心を安んずるように配慮できるかな?」
「善処いたしましょう」




