第百二十二章 勇者の訃報 3.イラストリア王国軍第一大隊
「ヤルタ教の勇者が死んだ……って、ヴァザーリで殺られたんじゃなかったのか?」
訝るように聞き返したのはローバー将軍。イラストリア王国第一大隊の屯所での一コマである。
「いえ、第二次ヴァザーリ戦では死者は出ていません。お忘れですか?」
「……そう言えばそうだったな。ヤルタ教の連中は犠牲者の頭数に入れとらんかったから、忘れとったわ」
信者が聞いたら激怒するような事を、この将軍閣下は臆面も無く公言して憚らない。ウォーレン卿は軽く溜息を吐いた。
「で? その遊者とやらがどうしたってんだ?」
「……何か字が違っていませんか? ……まぁ、それは良いとして……」
良いんかい。
「……勇者の件です。どうもモローにある『流砂の迷宮』を攻略しようとして失敗したらしいですね。屍体は確認されていませんが、かれこれ二十日ほども音沙汰が無いそうです」
「二十日……しかし、あの迷宮が噂どおりなら、攻略にもそれくらいはかかるんじゃねぇか?」
噂とは言っても、モローの双子の迷宮はヤバい、というだけである。
生還した者が一人もいないのだから無理もないが、生還者がいないという事自体が何より雄弁にヤバさを物語っている。
「あの迷宮内で二十日も生き延びる程の手練れなら、撤退の時期を見誤る事は無いでしょう。還って来ないというのは、死亡説の有力な根拠です」
「成る程な……」
その件については納得したローバー将軍であったが、なぜこの話を持ち出したのかという疑問はそのままだ。
「で? こんな話を持ち出した理由は何だ? ダンジョンの討伐依頼でも出てるってのか?」
「近いですが、討伐依頼じゃありません。調査への協力です」
ウォーレン卿が持ち出したのは、住民の目線で見れば成る程と納得できる話であって、しかも面倒な内容であった。国軍の一大隊で軽々しく決定しては拙い程度には。
「……ウォーレン、この件はここでどうこうできる話じゃない。というか、儂たちだけでどうこうしたら、却って後が面倒だ」
「ですよね……」
「気は進まんが……この話は儂から宰相殿へ通しておく。恐らく陛下にお出まし戴く事になるだろう。お前は資料を纏めておけ」
「はぁ……この面倒な時期に……」
「ぼやくな。多分だが、Ⅹだってこんな事ぁ望んじゃいなかった筈だ」
「それは……そうでしょうね」
ウォーレン卿は、自分も目を通したバレンとエルギン冒険者ギルドからの嘆願書に再び目を遣った。
「まったく……いるかどうかも判らねぇモンスターとやらの調査に協力しろたぁ……」
「向こうも面倒なのが解っているから、こっちを巻き込んだんでしょう」
両ギルド連名による嘆願の内容、それは、「流砂の迷宮」の外で何者かが勇者を斃した可能性を指摘すると同時に、その調査への協力を要請するものであった。
ちょっと宣伝です。
作者の別作品「スキルリッチ・ワールド・オンライン」の書籍版およびコミカライズ版が発売される事になりました。タイトルはウェブ版と同じで変更はありません。
書籍版・コミカライズ版ともに幻冬舎コミックス様から、それぞれ11月29日と24日に発売になります。なお、電子版も同時発売の予定です。
書籍版のイラストは、コミカライズ版の作画をお願いしている三ツ矢彰さんです。
書籍化に当たっては、新たに挿話を六篇書き下ろしました。いずれもレアスキルに関する裏話的なあれこれです。各レアスキルの曲者振りが能く判る話になっております。
コミカライズ版(バーズコミックス)の方は、デンシバーズ読者の方は既にご存じでしょうが、ウェブ版とは少々異なる雰囲気になっておりますので、ウェブ版をご覧になっている方にも楽しめるかと。こちらの方も、巻末に挿話の形で一話書き下ろしてあります。
こちらの方も宜しくお願いします。




