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第百二十二章 勇者の訃報 2.ヤルタ教中央教会

 ヴァザーリの冒険者ギルドからその報せを聞いたヤルタ教教主ボッカ一世は不機嫌であった。それはもう、非常に不機嫌であった。



()(がた)い愚か者の若造(わかぞう)が……勝手に突っ走った挙げ句、我がヤルタ教の名前に泥を塗りおって……)



 ぷりぷりした教主の呪詛を一身に浴びているのは、既に死亡した公算が強いと伝えられた勇者……今となっては前・勇者のカルスである。


 黙って教会を離れた上に、これも勝手に「流砂の迷宮」に踏み込んで、挙げ句に返り討ちにあったらしい。しかも許し難い事に、態々(わざわざ)事前にバレンの冒険者ギルドに立ち寄って、ダンジョンを攻略すると宣言していったという。二十日を過ぎても音沙汰が無い事から、バレンの冒険者ギルドが死亡の可能性が高いと判断したのである。



(黙って死んでくれればいくらでも誤魔化しようはあるというに……馬鹿丁寧にダンジョン攻略を宣言した上でくたばるとは……)



 仮にも勇者がダンジョン攻略を宣言した上で不帰の客となった以上、冒険者ギルドは立場上からもその情報を秘匿はできない。公開するしかないのであるが、そうすると、ヤルタ教の(・・・・・)当代勇者がまたしても――スケルトンドラゴンに続いて今度はダンジョン相手に――敗退したという事実も公開される事になる。このところ味噌を付けてばかりのヤルタ教としては、更なる不面目は避けたいところだというのに……ご丁寧にも今度は死亡の花丸付きである。


 「頼りにならぬ」ヤルタ教、そういう枕詞(まくらことば)が付きそうな状況なのだ。


 教主の忿懣(ふんまん)も解ろうというものである。しかもこれには続きがあって……



「馬鹿勇者が死んだとあれば後釜の事を考えねばならんが……どうしたものか」



 むっつりと(ひと)()ちた後で、酒杯をぐぃーっと傾ける。素面(しらふ)で考えていられるような状況じゃない。困難だからと言うよりも、主に馬鹿らしいという理由で。



()りに()って、ダンジョンが取り沙汰されておるこの時期に……」



 マーカス発の仮説、そしてそれを修正(・・)した――注.教主視点――ヤルタ教の仮説によって、ダンジョンの存在がクローズアップされているのが現在の状況である。そしてどちらの仮説においてもダンジョンは――今更ではあるが――人間に敵対する存在として扱われている。そんな中での勇者の敗死、しかも二代続いての敗死である。ヤルタ教の非力さをアピールするのには恰好(かっこう)の題材だ。ヤルタ教に敵対する勢力が、これを利用しない筈が無い。


 そうなると、このまま無策に次代の勇者を任命して良いのかという話になる。鳴り物入りで任命した勇者が立て続けに敗北を喫したとなると、世間の見る目も変わってこよう。


 しかし……だからといってこのタイミングで次代勇者を選任しないとなると……



(ダンジョンへの敗北を宣言したようなものではないか……)



 これはこれで、ヤルタ教を頼みの綱と見ている信者の心を折りかねない。ヤルタ教への信仰と信頼が揺らぐ事になるだろう。



(次代勇者を任命して笑い物になるか、選任を見送って臆病者呼ばわりされるか……)



 成る程、教主ならずとも酒に手を出したくなる。どちらに転んでも不利益は免れず、利益の方はほとんど無い。その上更に問題があって……



(勇者への任命を拒む者が出そうな気配、か。……正直言って無理もないの)



 肩書きばかりで実利はほとんど無い勇者の称号。それと引き替えにダンジョンに潜らされて命を落とす……と、決まった(わけ)ではないのだが、それでも先の二人が立て続けにダンジョンで殺されている事実の前では、()(ゆう)と断じても説得力は無い。命あっての物種と逃げ出す者がいても、誰が責められようか。



(かえ)(がえ)すもあの馬鹿め……)



 再び湧き上がってくるカルスへの怒りを鎮めるために、教主は再度酒杯を手に取った。

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