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第百二十二章 勇者の訃報 1.バレン男爵領冒険者ギルド

「カルスの馬鹿がここ(バレン)を発ってから二十日……モローまで五日はかかるとしても、ダンジョンに潜ってから十五日は()っている計算だ」



 職員たちを前にして意味ありげな計算を披露しているのは、ここバレンの冒険者ギルドのギルドマスターである。



「ギルマス、それじゃやっぱりカルスたちは……」

「『流砂の迷宮』に喰われたって事だろうよ」



・・・・・・・・



 当代勇者ことカルスたちは、モローを訪れる前にバレンの冒険者ギルドに立ち寄って、「流砂の迷宮」を攻略すると宣言していたのである。


 二つの迷宮への立ち入り禁止を決定したバレンの冒険者ギルドとしてはカルスたちを止めない(わけ)にはいかなかったが、その制止を振り切って……というか、大見得を切った上でバレンを後にしたのである。



「ギルドマスターのご親切には感謝しますが、俺たちも一応勇者の称号を貰っている以上、ダンジョンを放置しておく(わけ)にはいかないんですよ」



 余計なお世話だ、あんたはひっこんでろ、と視線で語る勇者カルス。



「その意気込みは買うが、あの二つのダンジョンは危険すぎる。攻略するなら充分な人数で、少なくとも三つ以上のパーティが協同して当たるべきだ」



 生意気な若造(わかぞう)()(ぜい)が出しゃばるんじゃない、くたばるのは勝手だがこっちに面倒をかけるな、とこちらもオーラで威圧するギルマス。


 狐と狸の化かし合いのような腹芸会見は決着の付かぬままに終わり、カルスたちはバレンの町を()った。それがギルドマスターの言うように二十日ほど前の事であった。



・・・・・・・・



「やっぱり()られたんですかね?」

「まぁ、()られたにしてもダンジョン以外にって事も考えられるが……カルスは腐ってもA級冒険者だ。そんじょそこらのモンスターや夜盗如きに(おく)れを取るとは思えん」

「ドラゴンとかならどうですかね?」

「ドラゴンか……」



 (せい)()を離れた若いドラゴンが人間を襲う事はあるが、それは大抵が夏かその少し前である。そろそろ冬籠もりというこの時期に旅人や村を襲った例は無い。



「でも、若いドラゴンの縄張りにうっかり踏み込んだりしたら……」

「考えられなくは()ぇか……」



 他の場所ならともかく、あの辺りでは以前にもドラゴンが出たとの話がある。無下(むげ)に笑殺する事はできない。それに……エルギンのギルドマスターが以前に――根拠の無い懸念だがと言って――伝えてきたように、あの辺りにドラゴンを追い払うような何かが巣くっている可能性も無視はできない。万一そんなものとやり合ったのなら、勇者と(いえど)も良いところ無く粉砕されるのは確実だ……。


 しばらく考え込んでいたギルドマスターであったが、やがて顔を上げると部下に質問を放つ。



「最近あの辺りで、ドラゴンの咆吼(ほうこう)だか影だかを聞いたり見たりしたという話でも出てるのか?」

「いえ……それはありませんが……」

「ならば、やはり()手人(しゅにん)はダンジョンって線が濃厚だろう。……とは言え、一応注意書きは出しておくか」



 勇者一行を(たお)したのがダンジョンなら、中に踏み込まない限りは――「ピット」のように攻撃的なダンジョンもあるので、正確には言えば近付かない限りは――安全だが、ドラゴンなどのモンスターなら向こうから襲ってくる可能性もある。殺害犯人がダンジョンかそれ以外かは、冒険者ギルドの立場から言えば重要な違いであった。



「解りました。それと……ヤルタ教にも伝えた方が良いと思うんですが」

「あぁ? 何であのクソ坊主どもに教えてやらなきゃならん?」

「それは……一応カルスたちはヤルタ教の勇者ですし……」

「ヴァザーリの一件以来、冷や飯を食わせての飼い殺しだったろうが」

「それでも建前(たてまえ)上はそうなっています。ギルドとして知らんぷりはどうかと」

「だったらヴァザーリの連中に伝えてやれ。あそこのギルドはクソ坊主どもと仲が良いようだし、元々カルスはヴァザーリの所属だったしな」


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