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第百二十一章 「災厄の岩窟」 3.化石洞

些か妙な展開になってきます。

(ぬし)様、あの化石っていうのが出た場所は、発掘現場から近いんですか?』



 テオドラム兵が首尾良く第二層――の掘削基点となる空洞――に到達してから少し経った頃、ウィンが興味を抱いた様子でクロウに(たず)ねた。



『いや……たしかもう少し下で……場所も離れていた筈だ。……だったな、ケル?』

『はい、深さはそれほどありませんが、水平距離はそこそこありますね』

『それがどうかしたか? ウィン』

『えーと……そこへは坑道が通じてるんですよね?』

『今は閉鎖してあるが……それが?』

『いえ、兵隊さんたちに化石を見せたらどうなるかなーと思って』



 無自覚に意地の悪い発想であり、そしてクロウの琴線に大いに触れるものがあった。



『そりゃ面白そうだ。早速手配しよう』



 一も二もなくウィンの提案を採用したクロウであったが、さてどうやって兵士たちを誘導しようかと考えていた矢先に、事態の方が先手を打って動いた。



・・・・・・・・



「お? ……何だ?」

「……おいっ! これ……」

「急いで班長殿に連絡しろ!」




『おやおや? あいつら、自力で化石層を掘り当てたな』

『マスター、あれって、ゴーレムたちが見つけたのとは違う場所ですよね?』

『違うな。化石層は思ったよりも広がっているようだな……』



 石炭の有無を確認した時には、堆積層に熱や圧力が加えられた痕跡があるかどうかを手がかりに捜索したので、化石層の広がりまでは把握していなかった。


 だから、こういう見落としも生まれた。



「……うわぁっっ!? 何だ!?」

「落ち着け! ただの骨だ!」

「で……ですが班長殿……一体全体、あれは何の骨なのでありますか?」

「一つ目の……化け物だ……」

「あれは……角か……?」



 化石層から出土した骨を前にすっかり腰が引けているテオドラム兵たち。対してその様子を覗き見している従魔たちは興味津々である。



『マスター! あれ、何なんですか!?』

『おっきぃ骨ですぅ』

『はて……見た事の無い骨でございますな』

『クロウ様、あれは何の骨なんですか?』

『多分……象の仲間だな。マンモスかナウマン象か、それとも別の種類なのかまでは判らんが』

『象……ですか……?』

『あぁ、あの頭骨ならまず間違い無いだろう』



 ナウマン象やマンモスを含む象の頭骨の正面には、大きな穴が一つ存在する。人間であれば眼が存在する場所に当たるため、巨大な一眼を有する怪物かと誤解されるのだが……実はこれは鼻の穴であったりする。象の眼は、写真を見れば判るが鼻よりも明らかに小さく、しかも側面に位置しているため、象を知らない人間が頭骨だけを見れば、鼻孔と(がん)()を取り違えるのも無理はなかった。ギリシア神話のサイクロプス(キュクロプス)など、実はこの頭骨がモデルとなって想像されたのではないかという説もあるくらいだ。目の前のテオドラム兵の反応を見ると、大いにありそうな話に思える。


 ちなみにこの頭骨では、特徴的な長大な牙――いわゆる(ぞう)()――は、どうした(わけ)か二本とも頭骨から離れており、牙ではなく角と誤認されたようである。



「どうしたっ! 何が起きた!?」

「あ、小隊長殿!」



 急報を受けて飛んできたらしい上官に向かって、斯々然々(かくかくしかじか)と理由を説明する下士官。下士官の顔と出土した頭骨を代わる代わる眺めつつ説明を聞いている上官。最終的に小隊長も、これは自分の手に余るとして、兵士たちをそこに残して上層部へお伺いに走る。



 骨格の確保と坑道の一旦閉鎖の決定が兵士たちにもたらされたのは、翌々日の事であった。

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