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第百二十一章 「災厄の岩窟」 2.石炭よいずこ

 その日もテオドラムの兵士たちは、最近すっかり手に馴染んだ鶴嘴(つるはし)を担いで、ダンジョンの中に潜って行った。武器や防具は――身軽に動けるように――取り外した。身体を動かしていると汗をかくし、危険なゴーレム――滅多に出なくなった――からは護衛担当の兵士が守ってくれる。それよりも落石落盤の方が怖いので、頭部だけは(かぶと)――というが、見た目はヘルメット――を被っている。ぞろぞろと列をなして歩いて行く仲間の何人かは角燈(ランタン)を提げている。これを一言で云えば……炭坑夫と言われてイメージする姿そのものであった。トロッコが無いのが残念なくらいである。



「そろそろ石炭ってやつにお目にかかりてぇもんだな」



 角燈(ランタン)を提げた兵士の一人が同僚に話しかける。



「そう簡単にはいかんのじゃないか? 聞いたところじゃ、かなり深い層にあるらしいからな」

「う~ん……ここのところ坑道を横に拡げるばかりで下には掘ってないからなぁ……班長殿に具申してみるか」



『おい、ケル! こいつ、とんでもなくありがたい事を言い出したぞ!』

『階層を下へ拡充ですか……予想外に予定が(はかど)りますね。どうしましょうか?』

『決まってる。もしも下へ掘る案が可決されたら、(ただ)ちにそれを可能にするように壁の設定を変更しろ。自主的に働いてくれるというなら、こんなありがたい事は無いからな』



 興味津々という感じでクロウたちが見守っていると、(くだん)の兵士は班長とやらに自分の考えを具申し、班長はしばらく考えていたようだが、やがてその場を後にした。

 班長不在となりはしたが、兵士たちはサボろうとする素振りも見せずに坑道掘りに精を出す。この日はそれだけで一日が終わった。



・・・・・・・・



 四日後、兵士たちの動きに変化が見られた。


 驚いた事に彼らは、やや広くなっている場所を選ぶと、そこに真下に伸びる坑道、すなわち竪坑(たてこう)を掘り始めたのである。



『……普通は斜め下に掘っていくもんじゃないのか?』

『……土とか岩屑とかをどうやって運び出すつもりなんでしょうか?』

『マイマイ井戸の形にできるほど広くはないしなぁ……』

『でもマスター、兵隊さんたち、何の疑いもなく、掘り始めてますよ?』

『そうなんだよなぁ……』



 クロウたちの懸念を、テオドラム兵は力業で解決していく。バケツに詰めた土や岩屑を人力で引っ張り上げ、えっさえっさと担いで捨てに行くのである。


 余談だが、テオドラム兵がダンジョン内で掘った土は、兵士たちがダンジョンの外まで運んで行って捨てている。別にダンジョンが吸収しても良かったのだが、テオドラムにダンジョンの知識を与えるのは最低限にすべしとの判断で、彼らが捨てに行くに任せていたのである。

 お蔭で隣のマーカス兵からは、信じられないものを見るような目で見られたが。



 「流砂の迷宮」で新勇者の一行が全滅してから三日後の事だった。



・・・・・・・・



『……このままじゃどうにも効率が悪いな』



 テオドラム兵が竪坑(たて)を掘り始めてから三日後、作業の(しん)(ちょく)状況を見ていたクロウが(つぶや)く。マンパワーのごり押しで作業を進めているとはいえ、狭い竪坑(たてこう)只管(ひたすら)下へ下へと伸ばしていくのは大変である。やっている事は井戸掘りと似たようなものだが、仮にもダンジョン内という事で、緊張の度合いが段違いである。その上に単調な労働が続くのだから、兵士のモチベーションが低下していくのは避けられなかった。



『……仕方がない。もう少し下に幾つか空洞を追加しよう。その空洞を結ぶように繋げれば、下層の叩き台くらいにはなるだろう』



 ()くしてクロウは、土魔法保ちの眷属たちの協力の下に、地中に幾つかの空洞を追加して、それっぽく見えるように体裁を整えた。あとはこれらを繋げるように兵士たちを誘導するだけだ。



『まぁ……これはこれで基本設計をこちらでやれるからな。却って都合が好いとも言えるか』



 (いささ)かの方針変更を余儀無くされはしたが、クロウは概ねテオドラム兵の勤勉振りに満足していた。

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