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第百二十一章 「災厄の岩窟」 1.悪魔はここに

書籍版発売記念、本日三話目の公開です。

 国境線のダンジョン内で水脈が発見されてからというもの、調査に従事するテオドラム兵士の鼻息は、以前に増して荒くなっている。


 折角水脈を見つけたのだから、このまま開削を進めて採水用の設備を造るか、それとももっと大きい水脈を探すか、そのどちらかだろうと思っていたら、案に相違して「石炭」というものを探すようにとの上意が下された。聞けばその「石炭」とは、黒くて硬い()であるにも(かか)わらず、()と同等以上に燃えるのだという。燃料に乏しい母国テオドラムにとっては、夢のような話である。


 自分たちは祖国が必要としている水と燃料を二つながらに入手して、困窮に(あえ)ぐ――実際はそこまで悲惨ではないのだが――同胞を救い出すのだ!


 事実と合致しようがしまいが、そのキャッチフレーズは兵士たちの琴線に麗しく触れた。()くて乗せられ易いテオドラムの兵士たちは、祖国を困難から救うために、日夜石炭探しに鼻息荒く邁進(まいしん)する事になったのである。



・・・・・・・・



『いや~……テオドラムのやつらは意外に働き者だな』



 感心したように発言したのはクロウ。そして彼が見ているのは「災厄の岩窟」のコアルームに設置されたモニターである。現在そこに表示されているのは「災厄の岩窟」の全体図。テオドラム側のダンジョン領域が明らかに拡がっている。


 その理由は奮起したテオドラム兵の活躍にあった。救国のスローガンの(もと)に剣を鶴嘴(つるはし)に持ち替えた彼らは、()まず(たゆ)まず(ひる)まずにダンジョン内の開削に打ち込み、おかげで未整備領域に大小数多(あまた)の坑道が伸びて、ダンジョンとしての範囲が大幅に拡大したのである。これを解り易く言えば、マーカスに較べてダンジョン領域の面積は既に三割増しになっているのだ。テオドラム兵の労働のお蔭で手空(てす)きとなったゴーレムたちをマーカス側に回して、なおこの較差なのである。クロウが感心するのも(けだ)し当然であった。


 (もっと)も、良い事ばかりではない。テオドラム兵は無計画・無秩序・無節操に坑道を掘っていくため、ダンジョンとしての体裁は(すこぶ)る不器量である。坑道は不均一に伸びて粗密の差が著しく、無意味な空間もかなりある。コンパクトに整然と(まと)まった、しかし攻略側には決してその事を悟らせない造りのマーカス側ダンジョンとは天と地、雪と炭ほどに違っていた。

 ただし、ダンジョンとしての優劣を考えると、どちらに軍配を上げるかは難しいところであった。ゆえにクロウはダンジョンマスターとして、テオドラム兵の――この場合は労働者としての――働きに満足していたのである。



『魔素の収穫量は()(しょう)だが、労働力の点では良い買い物だったな』



 既に奴隷扱いである。



『しかしクロウ様、テオドラムの連中が探している石炭は、ここには無いんですよね?』

『あぁ、それは確かだ。連中が坑道を拡げる度にチェックしているんだが、化石の層はあるものの炭化してはいない。徒労という(わけ)だな』

『それを知った時の彼らの顔は』

『あぁ、()(もの)だろうな』



 ぐふふと人聞きの悪い(わら)いを浮かべる腹黒主従。何と言うか、ここのダンジョンコアはクロウとよく似た性格のようだ。



『しかしクロウ様、彼らの働きぶりを見るに、ただ失望させてこれだけの労働力を(うしな)うのは勿体無いかと』

『ほほぅ……何か腹案があるのか? ケル』

『愚案ではありますが……石炭を諦めた場合には、石炭に代わる餌をぶら下げてやっては如何(いかが)でしょうか』

『ふむ、例えば?』

『例えば、別の水脈であるとか、(もっと)もらしい遺跡であるとか……』

『ふむ……遺跡は整合性を持たせるのが大変だし、金貨は話がどこまで転がるか読めん。だが……考え方としては悪くない、悪くないぞ、ケル』

『恐縮です』



 テオドラム王国の運命を(もてあそ)ばんとする悪魔たちがここにいた。

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