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第百二十章 レムス vs 新勇者 5.流砂の迷宮(その4)

書籍版二巻および同電子版、ともに発売になっております。書き下ろしも頑張りましたので、どうかお手にとってご覧下さい。

『結局、交代で見張りを立てたようですな』

『素直に休んでおけば良いものを』

『いや……さすがにそれは駄目でしょう?』



 レムスが宣言した五時間の休憩を鵜呑みにできなかったカルスたちは、交代で見張りを立てつつ休憩を取る事にした。強がっては見せたものの、もう一歩も動けなかったのである。



「……本当に何も無かったな」

「ダンジョンマスターのやつ、俺たちをいたぶってやがるのか……」



 実験動物(モルモット)に無用のストレスを与えるのを避けた、と言うのが正しい。

 代わりに別のストレスが溜まったようだが。



「とにかく、脱出を最優先にして行動しよう。このダンジョンは俺たちの手に負えん」

「同意するが……具体的にどうするつもりだ?」

「命綱はとっくに無いし、磁針(コンパス)の針もぐるぐる回るばかりで使えんぞ?」

「考えてはみたんだが……何とかして外気の流れを辿(たど)るしか無いと思う」

「外気?」

「あぁ。このダンジョンは砂ばかりで方角を示すものは何も無い。だが、俺たちが入って来た入口だけは、今もそこにある筈だ」

「……頼りない手掛かりだが……」

「今となってはそれしか無いか……」



『成る程、着眼点は悪くないな』

『ますたぁ、できるんですかぁ?』

『判らんが……「岩窟」に突っ込んだテオドラムの冒険者(バカ)がいたろ? あいつらのように、勘だけは妙に良いやつが混じってるかもしれんぞ』



 だが、生憎(あいにく)カルスたちのパーティは、勘の良さにも運の好さにも恵まれなかったらしく、順調に誤った方角に進んでいた。



『企画倒れだったか……』



 とぼとぼと砂漠を歩く勇者一行の足取りは、次第に重くなっていく。それこそ、(はた)から見ていても判るくらいに。



『あの……(ぬし)様、ひょっとして、あの砂って全部……?』

『言ったろう? ダンジョン壁が形を変えたものだ。歩く時に踏みしめる力も少しずつ吸い取っている』

『彼らは無駄に力を失い、ダンジョンはその分力を得るという(わけ)です』

『うわぁ……』

『歩くだけで力を奪われる仕様でございますか……』

『ま、それだけじゃつまらんから、色々と工夫もするんだがな』



・・・・・・・・



「うぷっ!? 何だ?」

「酷い風、いやっ、砂嵐だっ」



 突如として吹き荒れ始めた砂嵐――とは言っても、以前にニールたちを生き埋めにしたのと比べたら格段に()(ぬる)いのだが――に視界を奪われ、カルスたちは立ち往生する事になった。



「みんな、はぐれるなよ?」



 パーティが分断される事を危惧したカルスが声をかけるが、残念ながら事態の方が早く動いた。



「何だっ!?」



 何の予告も予兆も無く天井から落下してきた砂の塊が地響きを立てる。軽く見積もっても二百キロは超えている。直撃すればイチコロである。



「冗談じゃ()ぇっ!」



 高温、流砂、砂嵐と、砂漠にいるような錯覚に囚われていたが、ここは紛れもなくダンジョンである。つまり、天井があるのだ(・・・・・・・)。不意に崩れ落ちる、トラップのような天井が。



 落下する砂の塊を避けようと右往左往する勇者一行。誰一人潰されなかったのはさすがだが、その騒ぎと砂嵐のせいで、彼らは互いの位置を見失っていた。



「お~いぃ……げふっ……レリ……ぐふっ……」



 先程から何とか声を上げてメンバーの安否を尋ねようとしているカルスであったが、風に巻き上げられた細かな砂が気管に、そして肺へと侵入していく。それでも何とか、と声を出そうとしていたが、やがて胸を掻きむしるようにして倒れる。



『ご主人様、あれは?』

『微細な粉末に肺を覆われたんだ。細かすぎて咳すら起こさんから、気付かないうちに肺に侵入する。そこで肺胞表面の水分と反応して固まる。肺でのガス交換……呼吸ができなくなって窒息したんだな』

『つまり……馬鹿みてぇに大口開けてたせいで、砂に溺れたんすか?』

『言い得て妙だな、カイト。その通りだ。……残りは三人か……』

『いえ、クロウ様。たった今……』



 臨時メンバーである僧侶のサイクは、その時瀕死の状態にあった。落下してくる砂の塊を死に物狂いで避けているうちに転んで、その時に(さそり)――に見えるが(れっき)としたダンジョンモンスター――に刺されたのである。即座に回復の魔術を使ったが効果は無く、程無く激しい動悸と息苦しさ、眩暈(めまい)に襲われた。助けを呼ぼうにも声が出ない。死力を振り絞って出した声は、自分の声とは思われないほどに(しわが)れていた……。



(……カルスさん……みんな……)



『僧侶も沈んだか』

『ご主人様、回復魔術が通じなかったようですが?』

『フレイか。あれは毒ではなくてアナフィラキシーだからな』

『アナ……何ですか?』

『アナフィラキシー。簡単に言うとだな、体内に入ってきた異物に対して、身体が過剰に反応するんだ。無駄に大騒ぎした挙げ句に……まぁ、(たと)えて言えば……自分の(つば)が喉に詰まって死ぬようなもんだな。上手く言えんが』

『騒ぎすぎて心臓が停まるんすか?』

『厳密には少し違うが……まぁ、大雑把にはそんなもんだ。そのアナフィラキシーを引き起こすような物質を調合して、(さそり)に仕込んでおいた(わけ)だ。物質そのものは毒ではないから、解毒の魔法は効果が無い。回復の魔術は体力を回復させるものだから……』

『身体の方は無駄に元気になって、大騒ぎを続ける、と……』

『治癒術師にとっては悪夢ですね……』

『機会があれば、アレルギー一般について講義してやろう。治癒術師なら知っておいて損は無いからな』

『是非お願いします』



 残りは二人……。

書籍版発売記念として、本日は三話公開とさせて戴きます。次の公開は約一時間後を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 唐突に力を得たことで精神性が育たず力を振り回してる感じで気分が悪い、特に主人公 叱る親もいない子供が虫の足を一本ずつ捥いで喜んでる図。苦労なく力をつけてその内、どんどん大きなものを壊していく…
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