第百二十章 レムス vs 新勇者 4.流砂の迷宮(その3)
本作の第二巻、早い書店では今日明日あたりから店頭に並び始めると思います。頑張って四話ほど書き下ろしを追加していますので、是非お手にとってご覧下さい。後書きで書影を公開しています。
早々に仲間を失ったカルスたち一行の足取りは重い。それもその筈、彼らが失ったのは、掛け替えの無い仲間だけではなかったのだ。
「……この迷宮全体が流砂のトラップかよ……」
「迂闊に休む事もできそうにないな……」
そう。彼らは冒険者にとって必須のもの……休息の機会を奪われたのであった。そして更に……
「撤退しようにも、方角が判らん……」
「どっちを向いても砂ばかりだしな……」
流砂から脱出するドサクサに、命綱は三本とも消え失せていた。無論レムスの仕業である。
『逃げ出す事はおろか、足を停めて休む事も許されないんですか……』
『真綿で首を絞めるようなものですな』
『俺たちゃ早めに生き埋めになって、正解だったのかもしれんな……』
『この様子じゃ三日も保ちませんぜ?』
『いや、そんなに時間をかけるつもりは無いぞ』
『はい。まだまだ試験項目は残ってますしね』
・・・・・・・・
当て処もなく進むカルスたちの目の前で、砂が不気味に集まり始めた。
「何だっ!?」
「用心しろ! モンスターだ!」
巨大な塊となった砂が、やがて人の形を取り始める。
「これは……」
「ゴーレムかっ!」
サンドゴーレム。人の姿をとってはいるが、その本体は先程の流砂と同様に砂である。人の姿は仮初めのものなので、手足や首の一つや二つ失ったところで何でもない。周りから幾らでも材料を補給して再生できる。
言い換えると……
「駄目だっ! 打撃も魔力も通じん!」
「畜生! 打つ手無しかよ!」
『案の定、馬鹿が力押しで攻めてきたな』
『はい。お蔭で魔力が回収できます』
『……あの、マスター? ひょっとして、あの砂……』
『おうよ。ダンジョンの壁が形を変えたものだ。加えられたエネルギーをそのまま吸収して無効化する』
『攻撃の分だけ力を得ます』
『うわぁ……』
「駄目だ! 撤退しよう!」
「あぁ。あんな化け物に付き合ってられるか!」
『正解、ではあるんだが……』
『はい。ここ「流砂の迷宮」では無意味ですね』
レムスの不吉な予言のとおり、離脱に成功したと思ったカルスたちの目の前で、再び砂が集まり始める……。
「げっ! まただ!」
「糞っ! あっちだっ! あっちへ逃げるぞ!」
『いや……どこへ逃げても砂ばかりなんだから、無駄だって気付けよ』
『クロウ様……不謹慎ですが、これって面白いですね』
『あぁ、モグラ叩きみたいなものだからな……お? あっちに行くぞ?』
『あっ!? レムスさん、二手に分かれたよ?』
『ほほぅ……これは中々……』
きゃっきゃと喜んでいる従魔たちを、憮然とした表情で見ている――モニターのサブ画面に各拠点の状況が映されている――のはアンデッドたちである。
『いや……カルスの野郎は気に食わなかったけど……』
『こうまで玩具にされると哀れよね……』
一頻り従魔たちが楽しんだ頃合いを見計らって、クロウがお楽しみの終了を宣言する。
『よぅし、お遊びは終了だ。早めに使い潰すと、残りの試験ができないからな』
『……ご主人様、既にあやつらは気息奄々のようでございますが?』
『……やり過ぎたか? 少し休ませるか』
スクリーンに映るカルスたちは、既に指一本動かす力も残っていない様子で倒れ伏している。
『だけどマスター、休めないと思ってるんじゃないですか?』
『ふむ……レムス、何とかできんか?』
言われたレムスも困惑したが、とりあえず砂の表面を動かして文字を書いてみた。
「《ただ今より五時間の休憩》……ば、馬鹿にしやがってぇぇぇっ!」
広漠たる迷宮に、勇者の絶叫が響いた。




