第百二十章 レムス vs 新勇者 3.流砂の迷宮(その2)
『レムス、今回は少し趣向を変えてみるか。前回とは違う手順であしらってみろ』
『解りました、クロウ様。なるべく多くの試験を執り行なうよう努力します』
前回と同じ手順で片付けるのもつまらない。そう考えたクロウは、性能評価試験という目的もあって、以前とは別の手順で始末する事を命じた。ニールたちを撃退した時には、何しろ砂嵐の威力が大き過ぎたため、手札の全てを使えなかったのだ。正直物足りない思いを抱いていたレムスは、好機とばかりにクロウの指示に従う。
『勇者が実験動物扱いかよ……』
『気の毒だが、分相応なところじゃないか?』
『俺たちだって似たようなもんだったからな……』
・・・・・・・・
「くそっ……なんて暑いダンジョンなんだよ……」
「砂漠だから当たり前と言えばそうなんだが……」
「これじゃぁ、用意してきた水は三日も保たねぇぜ」
砂漠と言えば定番の暑熱と渇きに、カルスたちは突入早々から苦しめられていた。レムスは一行がいる区画の気温を上げ、ついでに乾燥した風を――弱い砂嵐に擬装して――送り込む事で、勇者一行の身体から水分を奪う手に出たのである。
「この暑さじゃ早々に参っちまうぜ。カルス……」
「あぁ、少し早いが休憩しよう。温度が下がるまで待たなきゃ何もできん」
カルスたちは砂山を掘って窪みを作り、天幕を張って少しでも暑さから逃れようとしていた。
『いや……あいつら、ここがダンジョンだって解ってるのか? 何時間待っても、日が暮れる事も気温が下がる事も無いんだぞ?』
『希望的観測、ってやつですか? 主様』
『哀れな……』
『まぁ、砂の上で休むというなら好都合だ。レムス』
『はい。「流砂の迷宮」の名が伊達ではない事を教えてやりますよ』
砂の上に身を横たえて休んでいた一行は、その砂の温度が急に上がったのに驚いて飛び起きた。
「何だっ!? 何が起きた!」
「熱っ! 砂が! 熱い!?」
「いかんっ! 脱出するぞ!」
しかし、逃げ出そうとしたカルスたちの足下で、砂は不気味な動きを見せ始める。
「流砂っっ!?」
「しまった! オーキィっっ!?」
勇者たちを呑み込もうと渦を巻いた流砂の流れに、重鎧を着込んだ壁役が呑み込まれる。仲間たちが悲鳴を上げる中、壁役の姿は砂に埋もれてゆき……空を掴むように伸ばされた手が空しく藻掻くのを最後に、その姿を消した。
砂は平穏な姿を取り戻した。そこには最初から誰もいなかったかのように。
「オーキィ……」
「何てこった……」
『あ~ぁ……「流砂の迷宮」だってのに、重い鎧なんか着込んで来るから……』
『水と食糧を持ち出せたのは……三人ですか』
『残りは四人』




