第百二十章 レムス vs 新勇者 2.流砂の迷宮(その1)
レムスからの連絡を受けて「流砂の迷宮」のコアルームに転移して来たクロウと従魔たちは、スクリーンに映る勇者一行の姿――迷宮の入口を前に佇んでいる――を眺めている。久し振りのビッグイベントだというので、他のダンジョンコアたちはもとより、先代勇者のカイトたちや、以前ここに挑んだニールたちも、それぞれの拠点で映像を観ている筈である。
『さて……今度の勇者はどんな演し物をやってくれるんだ?』
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「流砂の迷宮」の入口を前にして、当代勇者のカルスは仲間たちと話していた。
「じゃあ、今から『流砂の迷宮』に突入する。みんな、覚悟は良いな?」
「あぁ、とっくに腹は括った」
「どうせ今のままじゃジリ貧なんだ。ここらで巻き返しておかんとな」
「命綱は大丈夫か?」
「あぁ、万一を考えて三本、別々の場所に結わえ付けてある」
「よし、それじゃ、入るぞ」
『ようやくご来店か。待ち草臥れたぞ』
『勇者一行は五人ですか。リーダーの剣士の他に、壁役、斥候、魔術師、それに僧侶という構成のようですね』
『……アレ?』
レムスと話し込んでいるクロウの耳に、不審そうなカイトの呟きが届いた。ダンジョンマジックを利用しているとはいえ、高性能な通話システムである。
『うん? どうした? カイト』
『いや……カルスたちのパーティは四人組だった筈なんすよ』
『確かにな。僧侶はいなかった筈です』
『迷宮攻略のために、新メンバーを追加したのかしらね』
マリアの発言は正鵠を射ていた。シュレクのダンジョン「怨毒の廃坑」が毒と怨霊だらけと聞いたカルスたちは、怨霊対策として知り合いの僧侶サイクに協力を依頼したのであった。しかし……
『でもぉ、ここってぇ……』
『怨霊なんか出ないよね』
『ま、何か見せ場を作ってくれる事を期待しよう』
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「何だ、これは……」
「何も無い……だだっ広いだけの砂漠じゃねぇか……」
「油断するな。砂の中に何か隠れてるかもしれん」
「レリン、サイク、モンスターなどの気配は?」
「今のところは無いようだ」
「そうですね。何も感じません」
「よし、注意して進むぞ。命綱は大丈夫だな?」
「大丈夫、三本とも異常は無い」
勇者一行の様子を見ながら微妙な表情をしているのは、以前に「流砂の迷宮」に挑んで敗れたニールたちである。
『厄介なのはモンスターじゃねぇんだよなぁ……』
『そのうち気付くさ。砂こそが本当の敵だってな』
そして命綱を切られて「還らずの迷宮」で迷う羽目になったカイトたちも……
『三本あるから大丈夫って訳じゃねぇんだけどな……』
『何本だろうと同じ場所にあるんだから、切る手間は大して変わらんからな』
『「還らずの迷宮」とは別の意味で、迷いそうなつくりですね……』
先達たちの呟きがカルス一行に届く事は無い。




