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第百十九章 「災厄の岩窟」 2.テオドラム王城

 水量はさほどでないにせよ、ともかくダンジョン内で水を確保する事には成功した。


 このところ(ろく)でもないニュースばかりが続いたところへ、久し振りの明るいニュースである。居並ぶ国務卿たちの表情も珍しく明るい。



「まずは吉報と言えるであろうな」



 前線に派遣した部隊の水供給の見通しが立ったと思ってか、レンバッハ軍務卿が珍しく弾んだ声で発言する。他の面々にも異論は無いようだ。



「しかし……今回見つかった水脈は、あまり水量が豊富な(わけ)ではないらしいな。農地の灌漑に使えるかと期待していたんだが……」



 残念そうな口調はラクスマン農務卿である。職掌柄、灌漑への利用という事を考えたようだ。



「そこまでの期待は無理だろう。第一、国境の真ん前に畑を作るつもりかね?」



 呆れたように(たしな)めるのはメルカ内務卿であったが、農務卿はしれっとした表情でそれに応じる。



「そうしても別段悪い事は無かろう? 第一、マーカスは実際にやっているではないかね」

「あれは兵士たちのおかずだろう」

「こちらでも兵士の食卓を賑わしてやれば良いではないかね」



 それもそうかと考え直す内務卿。何しろ水が出たという事実があるだけに気も軽い。しかし、ラクスマン卿の発言を聞き咎めた者もいたのである。



「……それよりラクスマン卿、先程の発言に『今回』とあったようだが?」

「何か問題が? 水の存在が実証された以上、他の水路を探すのは当然だろう?」



 ジルカ軍需卿の質問にしれっと答える農務卿。だが、彼の主張は軽々に同意できる範囲を踏み越えていたのである。



「新たな水路を探すというのか?」

「国家という視点で見た場合、あれしきの水量では大した役には立たん。より多くの水資源を求めて何が悪いのかね?」

「悪いとは言わぬが、それは早急に必要な事か?」



 マーカスやモルヴァニアとの仲が険悪になりつつある現在では、それらの国々――腹の立つ事に、全て川の上流に位置する――が水門を閉めて、テオドラムへの水供給を交渉カードとして切ってくる可能性はゼロではない。テオドラムよりも更に下流の国々へも影響が出るため、そのような暴挙に出る可能性は低いと見られてはいたが……それでも対抗策の一つぐらい持っておきたいのは人情である。

 ゆえにラクスマン卿の懸念も理解はできるのだが……内務卿には別の期待があった。



「そろそろ冬も近付いている。国民たちも薪の準備を始める頃だ。今この時点で石炭とやらが採れるのと採れないのでは、年内の燃料備蓄に大きな違いが出てくるのだ」



 予想どおり、ダンジョン内に水はあった。では、石炭は?


 メルカ内務卿の立場としては、期待したくもなろうというものだ。仮に石炭の入手が無理だとしても、内務を預かる者として、その如何(いかん)はなるだけ早く知りたい。いつまでも宙ぶらりんでは困るのだ。

 しかるに、農務卿の言うとおりに水路探索にマンパワーを傾注すれば、石炭の探索が割を食う恐れが多大にある……。


 その点を踏まえての懸念を説明すると、ラクスマン卿は――失敗したという表情を浮かべて――内務卿の意見に同意した。



「しかし……ラクスマン卿は何でそこまで急いでいたかのな?」



 不思議そうな面持ちでマンディーク商務卿が(たず)ねるが、この疑念については他の面々も同感であった。問われた農務卿はばつが悪い表情を浮かべながら白状した。



「いや……確信がある(わけ)では無いのだが、水脈に手を加える事で、マーカスの河川水量を減らしてやる事はできないかと思ってね」



 居並ぶ国務卿たちは声も無かった。

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