第百十九章 「災厄の岩窟」 1.捜索隊~テオドラム~
能天男爵が引き起こした騒ぎで一旦中断されはしたが、テオドラムのダンジョン探索部隊――表向きはあくまで行方不明者の捜索隊――は、今日も今日とてエンヤコラと鶴嘴を振るっていた。ダンジョン壁は本来なら破壊どころか傷つけることもできないのだが、折角の労働力を無駄にする事は無いと、未開削の部分はダンジョン化を解除してテオドラム兵の掘るに任せていたのである。手を出してほしくない部分は破壊不能のダンジョン壁のままであるためテオドラム兵も避けるようになり、開削してほしい部分だけを掘るようにし向ける。既にテオドラムの兵士たちは、クロウの中ではコスト要らずの労働力として位置付けられていた。
そのテオドラム兵が大金星――毒泉に繋がる地下水脈――を掘り当てたのは、ニールたちが旧都テオドラムでヤルタ教の動きを探っているのと同じ頃であった。
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『ケル、テオドラムが地下水脈を掘り当てたそうだな』
ケルからの連絡を受けて、クロウと従魔たちが「災厄の岩窟」のコアルームに転移して来る。
『はい。例の毒泉に繋がる水脈のようです。とりあえず何もせずに静観していますが』
『それで良い。俺たちが連中を監視している事に気付かれては、色々と面倒だからな』
クロウはモニターを注視しながら、これまでの経緯についての説明を受ける。それによると、テオドラムの調査隊は掘削部位をある程度広げて水脈を確認すると、それ以上の調査は中止して、そのまま現場の確保に動いたらしい。魔道具で――盗み聞きした限りでは王城に――一報を入れた後は、何もしていないそうだ。なお、水脈に当たったと言っても水脈をぶち抜いた訳ではなく、水路を見つけただというのが正しいようで、溢れた水でダンジョンが浸水するような事は起きていないという。
『クロウ様、テオドラムはこの後どう動くつもりでしょうか?』
『さぁなぁ……水資源の確保というのは予想できるが、実際問題として何をするつもりなのかが判らんな。こんな地下部から水をどうやって汲み上げるつもりなのかもな』
首を傾げるクロウであったが、これには従魔たちも同意見であった。
『桶に汲んで、えっちらおっちら運ぶんでしょうか?』
『いや……いくら何でもそんな非効率な事はしないだろうが……』
原始的な手押しポンプくらいはあるんじゃないかと思ったクロウであるが、能く考えるとバンクスの町でもポンプを見かけた憶えは無い。それに、地上に設置したポンプで地下水脈から水を汲み上げる事ができるのか、そこまで性能の良いポンプがあるのか、クロウには何とも判断がつかなかった。
『ふむ……水量も思ったより多くないな。というか、主水脈ではないのか?』
どうやら枝分かれしている水路の一つを掘り当てたらしい。生活用水ならともかく、大規模な灌漑に使えるかどうかとなると微妙な水量である。
『ご主人様……テオドラムは……ここに兵士を……常駐させる……つもりでしょうか?』
ハイファの言うとおり、テオドラムがここに兵士を常駐させるか、少なくとも定期的に兵士を寄越すなら、クロウが以前に主張していた「リピーター」を確保する事ができる。適宜兵士を「収穫」すれば――満足な量とは言えないまでも――定期的に魔素を回収する事はできる……。
『さて……どうしたものかな……』




