第百十八章 テオドラム 2.旧都テオドラム
ヤルタ教の動向を探るにしても、手始めにどこの町、あるいは村にヤルタ教が巣くっている――クロウたちの視点では「進出」などという単語は出てこない――のかを知らなくては話にならない。幸いにしてニールがヴィンシュタットの冒険者ギルドで聞き込んできた話の中に、この国におけるヤルタ教の本拠がテオドラム――この国の名前ではなく、ヴィンシュタットが新たな首都になる以前の首都であった、通称「旧都」テオドラム――にあるという情報があった。
さて、ヤルタ教の本拠地がどこかは判ったものの、そこへノコノコと出向いて嗅ぎ廻るのは余りにも無策である。連中だって「警戒」という単語くらいは知っている筈だ。
「シルエットピクシーと怨霊を使うのか?」
「へい。以前にマリアのバックアップを務めた時にシルエットピクシーの手並みは知りやしたし、サウランドに出張った時にゃ怨霊の手際も見せてもらいやしたんで」
さすがに旧都は人出が多い上に、シャドウオウルのサイズだと隠れる場所にも事欠くため、今回は見送る事にしたらしい。
「ふむ……それは構わんが、何を探らせるつもりだ?」
「手始めに、教会に出入りしてる商人と信者を」
いきなり本丸に潜入する事はせず、まずは外堀から埋めていくらしい。さすがにベテランらしく堅実な手口であった。
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旧都テオドラムで目立たぬように調査を始めた――実際に動くのはシルエットピクシーと怨霊たちだが――ニールたちは、得られた情報に当惑させられていた。教会に出入りする者はそれなりにいるのだが、監視している限りでは、いずれも信者と言うにはほど遠いのである。
「……どういうこった?」
テオドラム王国におけるヤルタ教の本拠地の筈なのに、信者の数は想像以上に少ない。
「ヴィンシュタットのギルドじゃぁ、ヤルタ教がのさばりだしたみてぇな話だったんだが……」
「のさばってるなんて言える状況じゃねぇぞ?」
ニールたち四人は一旦調査を中断して協議に入る。このまますごすごと引き返したのでは、クロウに会わせる顔が無い。
「……ちょいとばかり度胸を決めて、冒険者ギルドへ行ってみるか?」
「いや……その前に酒場に寄ってみようぜ」
ニールたちも長年この稼業で飯を食ってきたベテランである。探索が専門外のメンバーであっても、さり気なく話を聞き出す程度のスキルは身につけている。酒場で耳を澄ませるくらいはお茶の子である。ちなみに、万一の事を考えて、クロウが用意したメーキャップ道具――ニールの食い付きが凄かった――で、軽い変装を済ませている。
酒場で耳を澄ませた甲斐あって、ヤルタ教の活動は寧ろ地方の小さな村で盛んな事を、その日のうちに聞き込む事ができたのは幸運だったろう。
だが、それは同時に別の問題が持ち上がった事も意味していた。
「田舎だと冒険者は却って目立つんじゃねぇか?」




