第百十七章 オドラント 4.眷属会議(その1)
クレヴァスから連れて来た二体の従魔候補が盗み聞きした内容、そしてマリアがニルの冒険者ギルドで聞き込んできた内容は、クロウたちの計画に修正を迫るものであった。
『マリアの話によると、あと何回かは冒険者がオドラントの周辺を嗅ぎ廻るらしい。秘匿性に関しては念を入れて設計してるから、魔力や気配が漏れる事は無いと思うが、正直言って鬱陶しい。ダンジョンの外の様子を窺う仕組みが不足しているのも問題だ』
『セン……えぇっと、監視の魔道具は、増やせるんですよね? マスター』
『あぁ、センサーの増設なら可能だ』
『あの二体を……常駐させる……のは……駄目ですか?』
『オドラントはダンジョンモンスターの常駐を考えた設計にはなってないからなぁ……』
『研究開発のための拠点として造られておりますからな……』
『常駐しているモンスターって……サトウキビですよね、主様』
『一応トレントの仲間もいるんだが……戦闘用ではないからなぁ……』
『ますたぁ、トレントの復活はぁ?』
『う~む……ダンジョンマジックの死霊術を使えばできそうな気もするが……それをやると一発でダンジョンの存在がばれるぞ』
『ですよねぇ……』
ここでアイデアを出したのは、ピットのダンジョンマスターであるダバルであった。
『閣下、ピットに配備した「霧」は使えませんか?』
『霧か……』
「? ダバル、済まんが霧とは何だ?」
訝しげに――念話に慣れていないためか口に出して――問いかけたのは、便宜的にオドラントを預かっているペーターであった。
『あぁ、「霧」というのはピットの防衛兵器でな、敵兵の認識や判断力を攪乱し低下させる効果があるんだ』
「……麻薬を混ぜ込んだ煙幕みたいなものか?」
『能力的にはもう少し上だが、概ねその認識で間違ってはいないな』
『ダバルさん、あそこに霧を出すの?』
『あ、いや……霧でなくても似たような効果が出せれば……』
『でも、そうすると魔力に敏感な者はおかしいと気付くわよ? 通った者を皆殺しにするんならともかく……』
『……そうだな。マリアの言うとおりだ。先に方針を決めないと議論もできんな――気付かれないようにやり過ごすのか、一人残らず片付けるのか』
『後者の……場合だと……ダンジョンの……存在を……宣言する事に……なります』
『その見返りとして、中央街道を実質的に封鎖できるな』
ここで会議は少し紛糾した。オドラントの開発拠点の存在を明らかにするだけの見返りがあるのか?
『言いにくいんですけど、ご主人様、中央街道は以前から人通りは多くないみたいです』
『「中央」なんて名前が付いてるのに……』
『名告り出るだけの見返りが無いという事だな』
『名告り出るのはぁ、いつでもぉ、できますよぉ』
『ライのいうとおりだな。そう早めに選択肢を潰す事はないだろう』
斯くの如き流れで、冒険者たちをやり過ごす算段を詰める事になった。
『秘匿性そのものには自信があるんだがな』
『最初の予定どおり、センサーってのを増やすだけにしますか?』
擬装されたセンサーの増設はやるとして、それ以外に何かできないか、各自で考えてみようという事になった。
『万一の場合は、スケルトンドラゴンでも何でも、転移で送り込めばいいからな』




