第百十七章 オドラント 1.冒険者たち
その報せは、クロウにとっても他の面々にとっても、完全に予想外のものだった。
「テオドラムの冒険者が表を彷徨いてる?」
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オドラントのダンジョンは、ダンジョンとは名ばかりのクロウたちの研究開発拠点である。従って、一般的な意味での迷宮は存在せず、ダンジョンモンスターは勿論ダンジョンコアすら配備していない。
さすがにそれではいろいろと不便な事もあるので、行き掛かりでオドラントに駐留する事になった元・テオドラム王国イラストリア侵攻部隊二個大隊――のうち、クロウが何とか復活させた一個中隊規模の兵士――が、ダンジョンの維持と警備に当たっている。そして彼らの指揮・統括については、生前と同様にペーター・ミュンヒハウゼンがその任を受け持っていた。
そのペーターからの急報が、「洞窟」にいるクロウの許に届いたのである。
「ペーター、冒険者どもは何をしている?」
「監視システムによれば、辺りを調査しているようです……が」
「が……?」
「……あまり熱心な感じではありませんね。何というか……ノルマを果たしているだけ、というような感じで」
「ノルマ?」
「ただ、熱心ではありませんが、手を抜いているような感じは無いですね。見るべきポイントは見ているというか……要領だけ良くなった古参兵のような感じですか」
オドラントのダンジョンにはダンジョンモンスターを配備していないため、偵察戦力が不足している。復活させた兵士の中には斥候兵もいるのだが、人間がいない筈の不毛の地で斥候兵を活動させて、万一にも姿を見られたら退っ引きならない羽目に陥る。そこでクロウは、周辺の監視のために各種のセンサー――地球世界で使用されている機器を魔道具として再現したもの――を設置していた。ただし、センサーを発見されない事、不審を抱かれない事を優先したために、充分な数のセンサーを設置したとは言えない状況だったのである。魔力や気配の秘匿に関しては充分以上なのであるが……。
「ふむ……見つからないようにと監視システムを控えめにしておいたのが仇となったか……外部の状況が判らんのか……」
「申し訳ありません」
「いや、これは俺の手落ちだ。お前には何の落ち度も無い」
責任論はともかく、冒険者たちの意図が不明なのは色々と困る。映像と音声の各センサーの密度が低く、彼らの会話の全容が掴めないのである。
「とりあえず……ペーター、やつらが来た方向は判るか?」
「あ、はい。どうも南から……王都の方から来たようですね」
「王都だと?」
「あ、いえ、方角としては、です」
「あぁ……しかし、その方角に、冒険者たちの供給源になりそうな町は、他にあるのか?」
「……レンヴィルは牧場があるだけですし……やはり王都でしょうか……」
「ペーター、確認するが、やって来たのは冒険者だけなんだな? 冒険者に身をやつした兵士が混じっていたりはしないんだな?」
「それはありません。冒険者だけですね」
「ふむ……やはり、連中の会話を盗み聞きするか何かしないと、埒が明かんな……。ペーター、助っ人を連れてくるから少し待ってろ……気付かれないようにしてな」
まずは情報を収集しないと始まらない。そう判断したクロウは、情報収集向けのメンバーを動員する事にした。




