第十三章 クレヴァス 1.ダンジョンシード
第三のダンジョン登場です。ヴァザーリの奴隷解放戦の妙な顛末についてはしばらくお待ち下さい。
ヴァザーリ伯爵領での奪還作戦の翌日、いつものようにマンションから洞窟へと出勤した俺を出迎えたのは、珍しく慌てた様子のキーンだった。
『マスターっ! ダンジョンにダンジョンが生えたそうです!』
いや、キーン、お前、自分の言ってる事が解ってるか? 少なくとも俺には、お前の言ってる事が解らないんだが。
『す、済みませんマスター、ちょっと慌てて。えーと、岩山の仲間たちのダンジョンに、ダンジョンが生えたそうです』
うむ、半分ほどは理解できたが、残り半分は相変わらず理解不能だな。
『ご主人様……クレヴァスの……ダンジョン内で……ダンジョンシードが……発芽したようです』
はぁ? ダンジョンシードが成長してダンジョンになるんだろう? ダンジョンシードって、既存のダンジョン内で発芽するものなのか?
『全く……ないわけじゃ……ありません……ただ……多くの場合は……先に発芽した……ダンジョンに……吸収されます……けど……クレヴァスのダンジョンは……ダンジョンシードが……ありませんから……』
あー、そうか、俺がクレヴァスを一気にダンジョン化したから、ダンジョンシードもダンジョンコアもないんだっけ。生存競争が成立しないわけだ。
『そういう場合、ダンジョンシードはちゃんと成長できるものなのか?』
『聞いた事……無いですけど……多分……大丈夫……』
『ダンジョンシードの基本的な成長方針と、現在のダンジョン構造に齟齬はありませんからな。恐らくハイファの言うとおり、大丈夫でしょう』
むぅ。このまま放っておくと、本格的なダンジョンになるわけか。これは一度、クレヴァス組の真意を確認した方がいいな。望まないならダンジョンシードを別の場所に移してやればいいか。
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クレヴァスに転移して、どうするのがいいか皆に聞いてみる。このままダンジョンの進化を見守りたいというのが全員の答えだった。
『か弱きものが頼ってきたら手を差し伸べろ、そう仰ったじゃないですか』
おお、確かに言ったな。ダンジョンシードはか弱きものか……。
言葉のイメージに悩んでいたが、実物のダンジョンシードを見ると納得がいった。小さい、小さくてぷるぷるしている。硬い結晶質のダンジョンコアと違って、発芽したばかりのダンジョンシードは脆弱だ。これは確かに保護意欲をかき立てられるな。うむ。
斯くして、クレヴァスダンジョンの育成方針が決定した。
もう一話投稿します。




