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第百十五章 能天男爵 2.道化役登場

「まだ金鉱は見つからんのか!?」



 新たに出現した岩山で下品な叫び声を挙げているのは、クロウに能天気族(・・・・)――貴族ではない――呼ばわりされたノーデン男爵である。



「ありません! 洞窟のようなものも見当たりません!」

「そんな筈は無い! ダンジョンマスターが新たに岩山を追加した以上、それだけの理由がある筈だ。地下のダンジョンと繋がっているという以外の理由は考えられん! ……兵卒が誤魔化しているのではあるまいな?」



 部下を疑われた男爵軍の指揮官は、むっとした様子で反論する。



「お疑いなら、男爵様ご自身でお探し下さい」

「馬鹿な! 貴族たる者がそんな下世話な真似ができるか! 貴様がしっかりと手綱を握っておけ」



 尊大な口調で言いたい放題の台詞(せりふ)を吐き捨てると、男爵は再びイライラとした様子で岩山を睨み付ける。彼に豊かな金をもたらしてくれるであろう――注.男爵視点――その「金山(きんざん)」を。



・・・・・・・・



 ノーデン男爵の突発的な「侵略?」行為に顔色を変えたのはテオドラムだが、対照的にポカンとした顔付きで戸惑っているのは――一応は被害国になる筈の――マーカスである。



「……岩山を占拠した? ……ダンジョンではなくてか?」



 マーカスの反応は、概ねこの一言に集約されていよう。今まで地上に現れた岩山に関しては既にマーカスとテオドラムそれぞれで調査が済んでおり、金鉱石どころか鉄や銅すら見つからなかった事が公表されている。

 新しく出現した岩山についてはまだ調査を終えていないが、今まで無かったものが急に出てくるとも思えない。ここのダンジョンマスターは性格が悪そうだが、しかしチャチで姑息な嫌がらせをするようにも思えない。


 なのに、ノーデン男爵とやらはなぜ岩山の占領などに踏み切った?



「我が国にしてもテオドラムにしても、岩山の調査結果は一応公表している筈なんですが……」

「信じなかった……というのが当たっていそうだな……」

「上の方だけが美味い汁を吸っている――と、無条件に思い込むタイプですか?」

「どうもそうらしい。テオドラムから非公式なルートで釈明が来た。あの男爵の行動については、テオドラム王国としては一切関知しないそうだ」

(ひね)り潰しても構わないと?」

「明言してはいないが、多分な」

「潰した後から難癖を付けるような事は?」

「そこまで因業(いんごう)な真似はせんと思うが……」

「真面目に相手をすると、こっちまで同列に見られはせんか?」

「それは嫌だな……」

「解らんでもないが……さりとて放置しておく(わけ)にもいかんぞ?」

「テオドラムの責任において回収させるか?」

「待て。そうすると、テオドラム正規軍を我が国が公式に呼び込む事になるぞ?」

「厄介だな……」

「テオドラムのやつら……(わざ)(けしか)けたのではあるまいな?」



 一応侵略行為に当たるので、国として放置はできない。しかし、まともに取りあうと馬鹿を見る。テオドラムに回収させると、形式的には仮想敵国の正規軍を国内に呼び込む事になる。中々に面倒な案件であった。



「……いっその事、害獣退治として冒険者ギルドに依頼を出すか?」

「……名案かもしれんな……」



・・・・・・・・



『クロウ様、あの(おど)け者、如何(いかが)いたしましょうか?』

如何(いかが)って言われてもなぁ……』



 よもやバレン男爵の上を行く馬鹿がいようとは思わなかっただけに、クロウも対処に苦慮していた。



『この国の貴族の馬鹿度は想像以上だな……』

「面目ありません……」



 一応テオドラム貴族の端に連なるペーター・ミュンヒハウゼンが(しょ)()返って陳謝するが、彼が謝る筋合いのものでもない。眷属たちも気の毒そうに見るばかりである。



『ダンジョンとしての力を見せるのが正解なのか、見せないのが正解なのか……』



 たった一人の道化者のせいで、クロウ・テオドラム・マーカスの三者が振り回される事になったのである。

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