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第百十四章 「災厄の岩窟」 2.「災厄の岩窟」

 本国での決定の翌日、マーカスの国境監視部隊が多数の兵士――公式には行方不明者捜索隊の増援――をダンジョン内に送り込んだ事で、テオドラム側の警戒と国境線での緊張は一気に高まった。しかし、テオドラムはこれについて何もコメントせず、只管(ひたすら)ダンジョン内の調査を続けていた。 


 ただ、マーカスの調査部隊増強に対応して、テオドラムは国境線への派遣部隊を更に増強し、マーカスもこれに応じて監視部隊を増強した。


 国境線を挟んで対峙する両国の軍勢を合わせると、既に一個中隊どころではなくなっている。まぁ、その半数以上は、剣ではなく鶴嘴(つるはし)を担いで、国境ではなく岩窟内に出撃して行くのだが。


 しかしそれでも両国間の緊張が高まっているのは事実であった。



・・・・・・・・



『面倒な事になってきた……』



 「災厄の岩窟」のコアルームで頭を抱えているのはクロウであり、その周りで困惑しているのはかれの眷属たちである。



『テオドラムに続いてマーカスまで入り込んできましたな……』

『まったく……小隊規模の侵入者など想定していないというのに……』

『収益率が暴落です』



 そう、クロウの頭を悩ませているのは「災厄の岩窟」における収益性――この場合は魔素の収集効率――の低下であった。


 もともと「災厄の岩窟」は、お宝目当ての冒険者(リピーター)たちが繰り返し訪れる事を目標に設計してある。当然、罠やダンジョンモンスターも――基本的には――それに合わせたレベルに抑えてある。ところが蓋を開けてみれば、小隊規模のテオドラム兵がゾロゾロと列をなして侵入。少人数の冒険者に合わせて設置した罠がこれでは無効になる――実際に、罠にかかった兵士はすぐ仲間に救出、後送され、ダンジョンの収穫とはならなかった。更に今度はマーカスの兵士まで加わったのである。営業計画は全て御破(ごわ)(さん)。クロウでなくとも頭を抱えたくなる。



『殺傷レベルを上げますか? クロウ様』

『それも考えたが……状況が悪すぎる。今の状況でそれをやったら、テオドラムのやつらがどんな勘繰りをするか判らん』



 確かに。テオドラムの目的はあくまで石炭と水であるが、ミドの黄金郷という可能性は彼らの念頭にしっかりと根付いている。ここでダンジョンが急に攻撃的になったりすれば、その疑念が大きく育つ事は間違い無い――ダンジョンマスターが黄金郷を独占しようとしているという誤解とともに。



『当面は部隊の分断を優先した罠構成に変更して対応しよう』

『解りました』



 当初の予定が狂ったのは、侵入者の数が多すぎてトラップによる殺傷が効果的に働かなかった事が大きい。ならば、侵入した兵士を分断して少人数にしてやれば、トラップは再び有効に働く筈である。テオドラム兵の錬度が予想より高かった(わけ)ではないのだから。



『マーカスの方も同様に?』

『マーカスか……あっちはテオドラムより大分レベルが高いからな……。とりあえず同じように対処してくれ。この際だ、マーカス兵のレベルも(はか)っておこう』



 当初の目的と違い、収益性よりも正規兵相手の強行偵察のような感じになってきたが、それはそれでありだろうと開き直るクロウ。ここでの経験を生かして、次に造るダンジョンに反映させればいいのだ。



『けど……マスター、何だってマーカスは、調査隊を増やしたりしたんでしょう?』

『それな……多分だが、テオドラムに対する危機感からじゃないか?』

『危機感……で、ございますか?』

『テオドラムが何を探しているのかは解らんが、それを独占させるのは(まず)い気がする……そういった判断だろう』



 クロウの判断は概ね当たっていた。



『それで、マスター? このまま受けに廻っておくんですか?』



 キーンの口ぶりには、クロウならそんな手緩い真似はしないだろうという期待が籠もっている。他の眷属たちも同様で、ワクワクした様子で答えを待っている。反対に多少引き気味なのは、ダバルやペーター、爺さまなどの、自称「良識」組である。



『まさか。受けに廻ってばかりというのは趣味じゃない。今度はこっちの手番だ』

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