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第百十四章 「災厄の岩窟」 1.マーカス

 国境監視部隊の定時報告と共にもたらされたファイドル代将の懸念――および副官の分析――は、マーカス上層部の危機感を煽るのに充分なものだった。



《テオドラムは、我がマーカスに渡したくない何らかの存在を確信しており、それを確保・独占すべく、国を挙げて動いている》



 確かな事は何一つ示していないにも(かか)わらず、いや、示していないからこそ、この仮説の重要性は――良くも悪しくも――計量不能であり、かといって一笑に付すにはあまりにも大き過ぎた。下手をすると一国の運命がかかってくるのだ。



・・・・・・・・



「……やはり、このまま無視するのは(まず)いと思う」

(まず)いのは解っている。ではどうするかという話なのだ」



 放置は(まず)いと訴える一人に、苦虫を噛み潰したような表情で言い返すもう一人。居並ぶ他の国務貴族たちも、良い知恵が浮かばないのか沈黙を守っている。



「しかし……結論を下そうにも、そのためのデータが全く無い状態では……」

「だからといって手を(こまね)いていれば、完全に後手に回るぞ?」

「最悪、テオドラムが全てを手に入れた後で事情が判明するという事も……」

「やめろ。想像したくもない」



 国務卿たちが頭を悩ませているのはテオドラムの不可解な行動、そしてそれに関して国境監視部隊が提示した仮説である。どちらも無視するには危険すぎる。さりとて、事情が解らない段階での軽挙妄動は、ただでさえ緊張状態にあるテオドラムとの関係を一気に悪化させ、暴発に至る可能性すらある。



「テオドラムのやつらが何を考えているのか、探る事はできんのか?」

「残念ながら、あの国に潜入させている諜者は多くない。ここで使い切ってしまう(わけ)にはいかんし、何より王城の中にまで食い込んだ者はおらん」

「それに……のんびりと返事を待ってもおれんだろう。テオドラムが本腰を入れてから既に八日、あの冒険者がダンジョン内で活動した最大日数を越えている。いつ目当てのものを発見するか判らん」



 この小田(おだ)(わら)(ひょう)(じょう)が始まってから既に二時間。居並ぶ国務卿の顔は、どれも沈痛と憔悴に(いろど)られ……いや、(くま)()られている。いい加減に痺れを切らした一人が、もはや勘弁できぬというように口火を切った。



「愚にも付かぬ堂々巡りをいつまで続けるつもりだ? 今は巧遅よりも拙速を選ぶべきだろう。我が国もダンジョン内に兵士を送り込むべきだ」

「しかし……テオドラムを刺激する事にならんか?」

「それが何だと言うのだ? (そもそも)、先に兵士を送り込んだのはテオドラムではないか。我が国が同じ事をしたとしても、非難される謂われは無い」

「そうだな……テオドラムがつむじを曲げたとしても、まさか即座に宣戦とはならんだろう。それよりも、今は出遅れる事の方が怖い」

「一体、あのダンジョンに何があるのだ……?」

「そして、テオドラムはどうやってその事を知ったというのか……?」

「その答えが得られる事を望もうではないか」

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