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第百十二章 ニル 2.冒険者ギルド(その2)

 ニルの町再興のためのプランを案出し、王都ヴィンシュタットにある冒険者ギルドの本部に提出する。


 自分のような下っ端になんて無茶振りをとも思ったが、自分にもできそうな打開策があるというのは琴線に触れるものがある。どうせこのままではジリ貧だ。万一お偉方の不興を買っても、今のニルより場末の場所があるとは思えないし、左遷の心配だけはしなくて良いかと開き直る。幸か不幸か時間が有り余っているのは事実なのだ。そう腹を(くく)った職員は、改めてギルドマスターの方に向き直った。



「けど……今の状態は、素材の供給先と商人の往来を絶たれた結果、起きるべくして起きたものですよね? それを改善する方法となると……」

「まず、素材の入手は諦めるしかない。ピットのある山は今や鬼門だし、反対側のリーロット周辺には山林が無い。ここからグレゴーラムまでの国境地帯には一応森林もあるが、狭いせいで有用な素材を採れる魔獣(モンスター)はいないからな」

「でも、そうなると残るのは護衛依頼だけですよ? うちが関われるのはリーロットへの護衛くらいです。けど、現状あそこはまだ発展途上の段階だし、商人たちの食い付きも今一つです」

「だが、いずれは大きな町になる。その時になって、ここのギルドでは護衛の斡旋(あっせん)ができません、斡旋(あっせん)できる護衛がいませんなんて事になったら、それこそ本当にお終いだぞ?」

「一定数の冒険者を確保しておかなきゃならないんですよね。それは解りますが、冒険者たちを引き留めておく算段が……金を払って嘱託にしますか?」

「落ち目のギルド支部で動かせる金は多くない。引き留めておける程の給金は支払えんぞ?」

「半人前かロートルならどうです? 町の半端仕事くらいならあるでしょうし」



 ふむ、とギルドマスターは考える。その場凌ぎでしかないが、その場凌ぎとしては悪い手じゃないかもしれんな……。



「……一応の検討には値するな。しかし、本命にはならん」

「えぇと……本命っていうと?」

「幾つか考えてはある。一つは、リーロットの拡張工事のための人夫を斡旋する」

「……本気ですか?」

「提案するぐらい構わんだろう? うちで労働者を募って送り込めば、護衛の仕事はうちのもんだ」



 大胆と言うにはあまりにアレな発言を耳にして、成る程、本命と言うからにはここまで開き直る必要があるのかと、妙な感心をする職員。



「次に、リーロットの商人をここへ呼び込むという手がある」

「……は?」



 この旦那はまた何を言い出すんだと言いたげな職員。それを――内心で二割程は同意しつつも――横目に見ながら説明するギルドマスター。



「まだ上手い方法は思いつかんが、例えば、ここニルはマルクトとグレゴーラムの中間にある。二つの町の交易を斡旋するとか、それぞれの名産品を集めた市を定期的に開くとか、そんな事をやれば国内の経済の活性化にも繋がるし、リーロットの商人も興味を持つだろう」

「…………」

「三つ目だが、レンヴィルからここまでの道の安全性を確認する。冒険者たちを集めて、道中の調査を行なう(わけ)だ。それで原因が判れば王国の憶えもめでたいし、何も無ければ安全宣言が出せる」

「……三つ目にしてやっと冒険者ギルドらしい提案が出てきましたね……」

「先の二つにしても、成算がまるで無い(わけ)じゃないぞ? ここは一応交通の要地だからな。本部としちゃ押さえておきたいだろう。一旦支部を閉鎖すると、再開の時に色々と面倒になるからな。ここを存続させるための名目さえあれば、補助金の一つや二つは引っ張ってこれる」

「はぁ……そんなもんすか……」

「だがまぁ、本部に提案する献策は多ければ多い程良い。お前の案も当然盛り込むし、他にも知恵を出してもらうぞ。暇なんだろう?」



 ギルドマスターが立ち去った後で、職員は少し前の己の失言を呪いつつ、慣れない仕事に取りかかる。



「えぇと……今やれそうなのは、レンヴィルからニル(ここ)までの間の調査の見積もりを立てるくらいか……。中央街道……って名前だけは景気好いんだけど、しっかりした調査はやってなかったからなぁ……」



 ぶつぶつと(つぶや)きながら調査計画を立て始める職員。


 クロウたちの拠点があるオドラントの調査計画が立てられようとしていた。

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