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第百十二章 ニル 1.冒険者ギルド(その1)

 テオドラムの不可解な行動がクロウの頭を悩ませる少し前、目まぐるしく躍動する歴史の奔流から取り残されたような場所でも小さな動きがあった。



「……暇だ……」



 人気のほとんど無い冒険者ギルドの建物内でポツンと呟いたのは、ここニルの町の冒険者ギルドの職員である。支部開設以来、冒険者で()(あふ)れているなんて事は元々なかったが、それでもここまで閑散としていた事は無い。隣国イラストリアの南街道のほぼ真ん中に繋がるテオドラムの中央街道、その出口に当たるニルの町は――特産品がある(わけ)でも大きな(いち)が立つ(わけ)でもないにしては――そこそこの賑わいをみせていた。イラストリアの商都の一つであったヴァザーリが(ちょう)(らく)し、その代わりにニルの町にほど近いリーロットが台頭する気配を見せている現在、ここニルの町はもっと賑わっていて良い筈なのだ。


 しかし、現実はそうなってはいない。



「……暇だ……」



 若い職員が所在無げに呟きを繰り返す程度に暇で……はっきりと言えば(さび)れているのである。


 その理由もはっきりしている。


 テオドラムの二個大隊がレンヴィルとニルの間で忽然と姿を消した。そういう噂が――公式にはそういう事は一切認められていない――流れているせいだ。王都ヴィンシュタットからニルの町へ至るには、どうしたって問題の場所を通らなくてはならない。二個大隊の消失――があったと噂される時期――以来、同じような消失騒ぎは起きていないものの、そんな物騒な場所を好んで通りたがる者はいない。それに、ヴァザーリの後釜と目されるリーロットの町にしても、今現在の経済規模はさほど大きくない。まして馬鹿な兵士がリーロットでヘマをしでかして以来、あの町ではテオドラムへの風当たりはきつくなっている。無理して通る必要も旨味も無いのである。


 ()くしてニルの町を訪れる商人の数は減り、商人の護衛としてこの町へやって来る冒険者の数も減り、ギルドに閑古鳥が鳴くという現在の状況に繋がるのである。


 正確にはそれだけが原因ではない。……そう、原因はもう一つある。


 元々ここニルの町の冒険者は、護衛よりもモンスター素材を得る事で稼いでいた。テオドラム国内には山林が少なく、結果としてモンスターの数も少ない。つまり、国内では需要を満たすだけのモンスター素材を得るのは難しい。窮した冒険者たちが採用した手段が、隣国での狩りである。この世界では冒険者が国境をまたいで活動するのは珍しくない。その慣習に乗じて、積極的に隣国――とはいっても大抵は国境近く――に潜り込んではモンスターを狩っていたのだ。(もっと)も、テオドラムの冒険者たちの狩猟技術はお世辞にも褒められたものではなく、そのせいもあってお()(こぼ)ししてもらっていたというのが実情であるが。

 ともあれ、ここニルの町の冒険者も、隣国イラストリアの山林に出かけてはモンスターを狩り、素材を得ていたのである。


 それができなくなった。


 冒険者たちの好い狩り場であった場所――ピットと呼ばれるダンジョンの付近――が急に危険地帯になった。正確に言えば、ピットのモンスターがなぜか急に凶猛になったのだ。


 王国からの依頼を受けてピットの偵察に赴いた冒険者は、全員が未帰還となった。それどころか、後日ピットに出動したテオドラム兵二十五名――この時は冒険者も五名ほど随行した――も、全員が行方を絶った。


 彼らに何が起きたのかは、今もって不明のままである。


 これら一連の事態を受けて、ヴィンシュタットにあるテオドラム王国冒険者ギルド本部は、ピットのダンジョンを「非推奨」に指定した。この決定についてはピットのあるイラストリアの冒険者ギルド本部にも伝えられている筈だ。それだけでなくテオドラムのギルド本部は、ニルからイラストリアへ向かう街道の護衛任務も同じく「非推奨」扱いにしようとしていた……これはニルのギルド支部と商業ギルドが協力して――王国も一枚噛んでいたと聞いている――阻止したが。


 何にせよ、護衛依頼とモンスター素材という稼ぎを失ったニルの町に、冒険者が寄り付く筈も無い。



「……ひ「そんなに暇なら仕事の一つも考えちゃどうだ?」」



 三度目の独白に押し被せるような声は、ここのギルドマスターのものである。



「このままの状態が続くようなら、お前も俺もここで一生飼い殺しだぞ?」

「で、でもギルマス、俺たちに何ができるって言うんすか?」

「そのちっぽけな頭でも、考える事ぐれぇはできるだろうが。往事の状態を取り戻すためにはどうすればいいのか本部に献策する、そのくらいやってみせろ」

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