第百十一章 「災厄の岩窟」 5.眷属会議(その3)
不可解であったテオドラムの態度に一応の説明が付いたところで、クロウが贋金貨の事を思い出す。
「そう言えばエメン、あの冒険者に拾わせた金貨だが、どんな代物なんだ? 遊び心を加えたとか入ってたよな?」
「あれですかぃ? つい熱が入っちまいましてね。ある意味でこのエメンの最高傑作でさぁ」
問われたエメンがなぜか妙に胸を張る。その様子にクロウは首を傾げた。力作なのは解ったが、一体何を造ったんだ……?
「なぁに。ボスがシャルドの遺跡ってぇ大ネタを仕込んだって教えて下さったじゃありませんか。あっしもそれに倣いたいと思いましてね」
確かに、どこの国のものでもない金貨を造れとは言ったが……自分の指示を思い返して、何やら不安に囚われるクロウ。
「そこでミドの国の伝説、世に言う黄金郷伝説ってやつを思い出したんでさぁ」
「何? 黄金郷だと?」
いきなり中二心をいたく刺激されるワードを聞かされて、思わず前のめりになるクロウ。古代遺跡と埋蔵金は、いつでも男の子の夢である。
対して会議の他の面々――クロウの絶対的シンパである従魔たちを除く――の胸中には、漠然とした不安が育ちつつあった。
ミドの伝説だと?
「エメン、その、ミドの国の伝説とやらは、一体どんな話だ?」
問われたエメンは澱み無く伝説のあらましを話して聞かせる。この大陸の者なら、大抵一度は耳にした事のある話だ。
《かつて強欲な一人の王がいて、己が手の触れる物全てが黄金に変ずる事を望んだ。神は愚か者の望みを――嘲笑いとともに――叶えた。己が手の触れる物全て、食物も、酒も、そして愛するわが子も全てが黄金と化した事に狂乱した王は、国民を悉く金の像に変えて国を滅ぼした。今もどこかに彼の国の国民たちが、黄金の像と変じたままに眠っているという》
(前半はミダス王の伝説に少し似ているな……人間の欲ってやつは、どこでも似たような訓話を生み出すものらしいな)
他人事のような顔で納得していたクロウであるが、そこにエメンが容赦無い爆弾を放り込む。
「で、こないだボスが銅でできた屍体ってやつを投げ込んで、この話に真実味をお与えになったじゃねぇですかい」
「何!? あの話がここへ繋がるのか!?」
クロウにしてみれば青天の霹靂である。確かにミダス王の伝説にインスパイアされたのは事実だが……まさかこちらの世界にも似たような……そしてもっと悪趣味な伝説があるとは思ってもみなかった。
「……エメン。その……ミドの伝説に題を採ったという贋金貨だが……具体的にはどういうものなんだ?」
聞くのが恐い気がするが、ここで聞いておかないともっと拙い気がする。
クロウは恐る恐るエメンに訊ねた。




