第百十章 王都イラストリア 4.ヤルタ教中央教会(その2)
新しく出現したダンジョンが帯状に並んだ地図を見て、なぜこんな配列になったのかと自問するヤルタ教教主ボッカ一世。
しばし酒を飲むのも忘れて考え込むが……判らない。
いや、判る訳がない。理由など初めから無いのだから。
全てはクロウが行き当たりばったりにダンジョンを開設した結果、偶々帯状に並んで見えただけの事である。そこに深い意味など欠片も無い。探す方が間違っている。
……の・だ・が……余人と同様に教主もやはり、ありもしない理由を探して延々悩むという陥穽に陥った。ご愁傷様である。
ただし、この教主が只者でない事には、理由を思いつけなかった時点で、理由を探すのをあっさりと放棄したのである。
(バトラの使徒めは、理由は判らぬが、帯状にダンジョンを並べる必要があったのじゃろう。そこで、古くからあったダンジョン、あるいはその残骸を活性化して、そこに新たなダンジョンを追加したのではないか?)
いわばマーカス説の修正版である。
(そうすると……ピットとシュレクは明らかに追加された方じゃな。シャルドは間違いなく古い方。モローは……彼の地には古代の遺跡があったと聞くし……古くからあったものか? 討伐されたモローのダンジョンとやらは、古来のダンジョンが発する邪な瘴気によって生み出されたのかもしれぬ……)
事実は順番が逆なのだが、とりあえず話の筋は通っているのが不思議である。
(問題は国境線上に現れたという岩山……「災厄の岩窟」などと呼ばれておるようじゃが……金属に変じた屍体が現れた場所じゃな)
教主の中では、銅製の「屍体」のようなものは、金属に変えられた屍体であると決まっていた。それには教主なりの根拠があった。
(国民全てが黄金像に変じて滅んだというミドの国。あのダンジョンがその国の跡地であるとするなら……これも古来よりのダンジョンとすべきであろうな)
ここにも黄金郷伝説に囚われた者がいた。
教主は再び杯を空にしつつ考えを進める。
(しかし……この考えが正しいとして……亜人どもの取り扱いに何か変化があるか?)
無意識に酒を注ぎながら、教主はそれについて考え込む。マーカスの仮説では、他の全てのダンジョンが眠りから目覚めた中でシャルドの遺跡のみが復活しなかった理由として、人間と亜人が協力してダンジョンを討伐した事が強調されている。
しかし、先程教主が考えたように、ダンジョンを帯状に配置する必要に迫られた何者かが、近年になって古いダンジョンを再利用し、足りない分を新たに造り出したのだとしたら……
「人間と亜人の協力などという戯言の出る幕は無くなる……」
どうやら今夜は美味い酒を楽しめそうだ。




