第百九章 「災厄の岩窟」 6.捜索隊~マーカス~(その4)
「やはり魔道具は使えないな」
灯りの魔道具が使えない事を確認して、用意してきた松明に火を灯す。ダンジョン内で魔法が使えなかったという事から、おそらく魔道具の類も無力化されるだろうと予想していたので、松明は充分な数を確保してある。
「油断するなよ。できたばかりのダンジョンといっても、既に死者がでているようだからな」
「テオドラムの冒険者たちの死因は判らないのか?」
「屍体が見つかったのがつい先日だ。テオドラムの連中にだって判ったかどうか。仮に判ったとしても、その情報はこちらには流れんだろう」
「だな」
無い物ねだりをしても始まらないと、カーム率いる冒険者パーティは、最初の分岐のうち灯りのついていない方の分岐に侵入した。松明を頼りに歩いて行くと、やがて分岐のようなところへ出た。
「またぞろ分岐か?」
「いや……違うぞリーダー、これは部屋のようだ」
「部屋だと!?」
狭い通路でなく、中に何が隠れているか判らない「部屋」。危険度は通路の比ではないが、請け負った任務が探索である以上見過ごす訳にはいかない。いや、仕事がどうとかではなく、仮にも冒険者を名告っている者が、お宝があるかも知れない部屋をスルーするなどできる訳がない。入念な準備を整えた上で、カームら五名はダンジョンの一室に足を踏み入れた。
『さて、マーカスの冒険者はスパイダーゴーレムにどう立ち向かうんだ?』
先頭を進んでいた斥候役が掲げていた松明が、二、三度瞬いたかと思うと消えた。そして、後続の者が持っていた松明も……
「何だっ!? 灯りが!」
「慌てるなっ! 各人、周囲を警戒しろ。ズマ、予備の松明を」
場慣れしているリーダーの指示に従って、いつもの手順で対処しようとした彼らも、予備の松明までもが消えるという事態に至っては、さすがに緊張感を隠せなかった。
「くそっ! 一体何が……」
「カーム! 鬼火だ! 鬼火が火に集ってる!」
「何だとっ!?」
鬼火とはモンスターとゴーストの中間的な存在で、空中に漂う微弱な魔力を吸収して生きている。通常ダンジョン内では、随所に溜まった魔力や瘴気に集まるが、松明の火に集るなどという事はこれまで報告されていない。しかし現実に、ここ「災厄の岩窟」の鬼火は、松明の火に集ってそのエネルギーを吸収するらしい。それはつまり、冒険者たちにとって灯りを得る手だてが無くなった事を示していた。
「くそっ! 魔道ランプが使えん以上、灯りは松明しか無い。ヒヴ! 何とかして鬼火どもを追い払えんのか!?」
「私は聖魔法は使えない! 水球を当てているんだが、効いてない!」
「ちっ! うっとおしいっ!」
冒険者たちは、松明の火を守るべく、各自得物や手を振り回して鬼火を追い払おうとしていた。
だから、小さな足音に気付くのが遅れた。
「うわっ!?」
「ズマ!? どうした?」
「……毒針だ! 何かいる!」




