第百九章 「災厄の岩窟」 5.捜索隊~マーカス~(その3)
義勇兵たちが待つ橋頭堡へ戻ってきたカームたちは、ゴーレム追跡の結果と通路のマッピング結果を報告する。カームが描いた簡単な地図は、冒険者たち全員がそれを自分の地図に描き写した。
「……なぁ、わざわざ全員が地図を描き写す必要があるのか?」
義勇兵の疑問にカームが答える。元々自分たちはマーカス兵に対する教官役として連れて来られた。実習の場所がダンジョン内部に変更されたが、兵士たちへの教導任務はそのまま依頼に残っている。生徒の疑問に答えるのも先達の仕事だろう。
「全員が無事帰還できると決まった訳じゃないんだ。誰か一人だけが帰還しても、あるいは全員が骸になっても、後続の者に情報を残すためだ」
「お、おぉ……そういう事か……」
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『成る程……そういう事か』
カームの説明に納得していたのはクロウも同じだった。ただし、ダンジョン攻略者ではなく、ダンジョンマスターの立場としてではあったが。
『という事は、贋の地図を屍体に残しておけば、後続の連中を望みどおりの場所に誘導できるな。ケル、あの地図の書き方を能く見ておけ。個人個人で書き方が違うかもしれんから、可能な限り全員分だ。偽造できる可能性があるかどうかを知りたい』
『承知しました、クロウ様』
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ダンジョンマスターがそんな悪巧みを巡らせているとは露知らぬ「捜索隊」の一行は、今後の計画について討議していた。
「……つまり、あんたたちだけで暗い方の通路を辿ってみるという事か?」
「最初はな。言っちゃなんだが、あんた方義勇兵はダンジョン内での行動に慣れていない。様子の判らない場所への侵入は、少し待った方が良いだろう」
「暗い方の通路を優先する理由は?」
「多分だが、仄明るい方の通路が、ダンジョンマスターが進んでほしい通路なんだろう。テオドラムの冒険者は経験が少ないようだから、仄明るい方に誘い込まれたかもしれん。だから……行方不明者を捜索するのなら仄明るい方へ進むのも手だろう。ただ……俺としてはダンジョンマスターがあまり進んでほしくない通路に何があるのかを確かめておきたい。伏兵でも隠されていたら面倒だしな」
「成る程……」
伏兵の有無を確かめるという理由にマーカスの義勇兵は納得したようだが、ソロの冒険者であるモズから確認が入る。
「暗い方の通路はどこまで進むつもりだ?」
「そう先の方まで進むつもりはない。……そうだな、進んでも半日で戻って来られる範囲だな」
「チェックし終えた通路の封鎖は?」
「考えていない。というか、そのための準備はしていないからな」
「今回はマッピング優先という事だな?」
「そう考えているが……お前はどう思う?」
「賛成する。俺たち先攻チームの役目は簡単なマッピングだろう。その先はもう一つのチームに任せて良いだろう」
探索の方針が決まったところで、カームたちのパーティが最初の暗い通路に入って行った。




