第百九章 「災厄の岩窟」 4.捜索隊~マーカス~(その2)
螺旋階段を降りきった一行は、その先で黄鉄鉱の露頭に出くわした。
「前回の報告書によれば、これは黄金じゃないんだよな?」
「ああ。『愚者の黄金』……黄鉄鉱だった筈だ」
兵士の一人が一応確認してみて、黄鉄鉱に間違い無いと保証した。
「だったら、こいつにかかずらうよりも先へ進んだ方が良いのか?」
念のためにスポンサーであるマーカス王国の意向を確かめる冒険者たち。
「あぁ、それで良い。鉄鉱石はそれなりに重要だが、今回は探索を優先せよとの指示だ」
「解った。先へ進もう」
通路を進む事を決めた一行の耳に、その時小さな足音が聞こえてきた。
「総員警戒!」
「捜索隊」のリーダーを任された冒険者パーティのリーダーが低い声で叫ぶ。やがて鶴嘴を担いだ小柄なゴーレムが一行と出くわして、回れ右して逃げ出すという、どこかで見たような光景が再現される。しかし、見たような光景はここまでで、そこから先の行動はテオドラムの冒険者たちと異なっていた。リーダーの合図に従って、彼のパーティメンバーが無言でゴーレムの後を追う。
「あんたたちはここに残って拠点を構築してくれ。モズだったか、面倒を押し付けるが、警護を頼む」
ソロの冒険者にそう依頼して、リーダーは仲間の後を追う。
「だ、大丈夫かな……?」
「他人の心配をしている暇は無いだろう? さっさと拠点を築かなきゃならんが、その前に周囲の安全確認だ」
モズと呼ばれた冒険者の指示に従って、義勇兵たちは安全確認と拠点の構築に取りかかった。
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パーティメンバーの後を追ったリーダーは、通路が分岐する部分で仲間の一人と出会った。
「ダッカ、どっちだ?」
言葉少なにゴーレムおよび仲間の辿った通路がどちらかを訊ねるリーダー。
「左だ。それと、ここには二つしか見えてないが、他にも隠された通路があるかもしれん……ただの勘だがな」
「お前の勘なら無視はできんな。ここを確保していてくれ」
「解った。気をつけて行けよ」
同じような遣り取りがあと三回ほど繰り返されて、一人になったリーダーはそのままゴーレムの気配を追いかけるが、やがて新たな分岐に出くわしたところで追跡を中止する。今度の分岐は三つ。ゴーレムが走っていったらしい通路は右端である。
リーダーの男――カームという名である――は周囲を見回し、他に隠し通路などがないかどうかを確認すると。そこを起点として簡単な地図を描きながら戻って行く。
「ここまでずっと、仄明るい方の通路を通らされてきたな……」
ならば、暗い方の通路には何が隠されているのか。カームはそれを確認するつもりでいた。
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『今度のやつらは慎重だな。というか、テオドラムの冒険者が馬鹿過ぎたのかもしれんが……』
『これなら良いデータが取れそうですけど……進捗に時間がかかりますか?』
『まぁ、それは大した問題じゃない。それよりも、隠した通路の存在に気付かれたのは予想外だったな』
『どうしましょうか?』
『こちらの目的はダンジョンの性能評価だ。冒険者たちの適正レベルを知らんと、ダンジョンの運営ができないしな。とりあえず、このまま進めよう』
『解りました、クロウ様』




