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第百九章 「災厄の岩窟」 1.マーカス王城(その1) 

 冒険者のダンジョン侵入を目撃してから五日目、国境付近に駐留していたマーカスの兵士は、装備を整えたテオドラム兵がダンジョン内へ進入して行くのを見守っていた。



「テオドラムのやつら、一転してダンジョン攻略に積極的になりましたね」

「軍使の弁によると行方不明者の捜索だそうだ。あの冒険者(チンピラ)どもがダンジョンに潜ってから五日経つというのに、一向に出てくる気配が無いからな」

「本当に捜索でしょうか?」



 副官の質問に、マーカス軍国境監視部隊の指揮官が答える。



「捜索するのは嘘ではなかろうよ。ついでにダンジョン内をあちこち探索するだろうがな」

「放って置くんですか?」

「どうしろと? ダンジョン内がどこの領土なのかは現状で確認できておらんのだ。前回の調査班によれば、螺旋状の階段のせいで、方角が全く掴めなかったそうでな。ま、暫定国境線という事を考えればダンジョン内への進入は褒めたものじゃないが、向こうには行方不明者の捜索という大義名分があるしな」

「……テオドラムの本音は何でしょうか?」



 副官の直球な質問に対して、指揮官は今度はやや考え込みながら答える。



「恐らくだが……我々に対する挑発のつもりなのだろうな」



・・・・・・・・



 マーカス王国の首脳部は、テオドラム軍のダンジョン進入を、自分たちに対する挑発であると見なしていた。しかしその一方で、なぜこのような形で再度の挑発を行なったのか、戸惑っていたのも事実である。



「テオドラムのダンジョン進入を看過する事は、やつらが我が国の領内へ侵入する危険性を看過する事に繋がる。だが……」

「うむ。テオドラムめが何のつもりでこのような挑発を行なったのかが解らぬ」

(そもそも)だ、挑発になると本気で考えておるのか?」



 マーカスが先行してダンジョン内に侵入したのなら、ごり押しにでも領内侵攻の意図有りとこじつける事ができるかもしれない。ダンジョンがどちらの方角に延びているのかは判っていないのだから、マーカス側の入口からテオドラムの地下に侵入できる可能性が無い(わけ)ではない。しかし、テオドラムが先行してダンジョン内に進入した現在、同じ理屈で糾弾されるのはテオドラムであってマーカスではない。マーカスがテオドラムの意図を掴みかねているのはこの点にあった。



「テオドラムには一応行方不明者の捜索という大義名分がある。その点をもって我が国がダンジョンに入った場合に糾弾するつもりではないか?」

「しかし、何でまたわれらがダンジョン内に侵入するなどと思うのであろうかな?」

「あのダンジョンが我が国の領土の地下に延びている可能性が無いとは言わぬが……」



 この世界のダンジョンとは、ダンジョンコアが獲物を誘い込んで殺すために構築した構造物である。従って、捕食効率と個体維持のバランスから適切な大きさというものが存在し、差し渡し一キロを越えるような大物は滅多に無い――あるとしてもそれは数十年、否、百年余を経たような古株のダンジョンであり、誕生したばかりのダンジョンではそこまで大きくなる事は無い。何より、地上に現れた岩山の並びが五百メートルほどなのである。つまり、ダンジョンを通ってマーカスの領内に侵入したとしても、その距離は多目に見積もっても一キロ弱。馬なら五分もかからない距離である。ダンジョンへの入口が判っている以上、その程度の範囲を警戒するなど難しくはない。


 ただし……国内にこれまでダンジョンを持たなかったテオドラムは、その事実を知らなかった。それくらい知っていて当然と考えているマーカスとは、根本的なところで認識の食い違いがあったのである。



「ともあれ……それなりの人数のテオドラム兵がダンジョンに進入した以上、我が国としても何らかの対処が必要だろう」


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