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第百八章 「災厄の岩窟」 7.捜索隊~テオドラム~(その1)

 テオドラム王国王城の会議室では、国務卿たちが「災厄の岩窟」の状況について討議している。



「愚かな冒険者がダンジョンに侵入してかれこれ三日、いまだ生還の報告は無い」



 軍務卿の報告に渋い表情を隠さない国務卿たち。



「マーカスの侵入を誘うべく兵を引いたのが裏目に出たか……」

「マーカスめも静観の構えだしな」



 困惑する国務卿たちに向かって、ラクスマン農務卿が挑発的とも言える問いを発する。



「諸卿らはこのまま睨み合いを続けるつもりか?」

「ラクスマン卿?」

「何か手立てがあると?」

「手立てというほどの事もないがな」



 一旦言葉を切ったラクスマン農務卿は、国務卿たちを見回して言葉を続ける。



「善良な国民が窮地に陥っている以上、国が救出のために動くのは不自然ではないと思うのだよ」



・・・・・・・・



『テオドラム兵が侵入?』

『はい。ただ、今回の目的は攻略ではないようです』



 低レベル冒険者の無謀なダンジョンアタックから五日後、クロウはテオドラム兵がダンジョン内に侵入したとの報告を受けていた。



『ふむ……装備を見ると捜索とか救出が目的のように見えるが……』


 先日侵入した冒険者(こそドロ)たちの救出か? ……いや、そんな殊勝な事を考える国じゃない。捜索・救出は建前に決まっている。本音は……


『行方不明者の捜索・救出の名を借りた探索、それとマーカスに対する挑発か……』

『挑発……ですか?』

『挑発というのが適切かどうかは判らんが、マーカス軍を焦らせてダンジョン内へ侵入させるのが目的だろう』

『……どういう事じゃ?』

『あくまで想像だぞ? マーカスがダンジョンに侵入した事をテオドラム領内への侵攻だと言い掛かりをつけて、マーカスを攻撃――テオドラムの主張に沿えば反撃だな――する。これが一つ……ただ、俺自身はこの目は低いと考えている』

『クロウ様、それはなぜですか?』

『既にモルヴァニアと一触即発の状況にあるテオドラムが、新たにマーカスとの間に戦端を開くとは考えにくいからな』

『なるほどのぅ……一つと言うた以上、他にもあるのじゃな?』

『あぁ。もう一つ考えられるのは、ダンジョン攻略のための実験台……というか、データ採集をマーカスにやらせようと考えている可能性だな』


 俺としてはこちらが本命なんじゃないかと疑っているんだが……。


『実験台……ですか……?』

『じゃが、マーカスとて知り得た内容を素直に明かしはせんじゃろう?』

『しかし、どの程度の被害が出たかというのは判る。要は危険度判定のための実験動物(モルモット)だな』

『うむ……という事は?』

『行方不明者を真面目に捜す……というか、奥まで入る気はないだろうな。浅い範囲を彷徨(うろつ)いて、時間だけ稼ぐ気だろう』

『マーカスは……ダンジョンに……入るでしょうか……?』

『さてな。ただ、テオドラムのダンジョン侵攻を安全保障上座視できないのはマーカスも同じだ。違うのは、ダンジョン内に入る大義名分の有無だけだな』


 実際にケルに確認してもらうと、テオドラム兵は橋頭堡を少しずつ前進させるような形で、広範囲な捜索を実施しているらしい。足跡などが残らない場所で、行方不明者を捜索する手順と一致している。ただ……あの馬鹿たちは後先考えずに突っ込んで行ったからなぁ……。


『クロウ様、どうしますか?』



 釣られたマーカスがダンジョンに侵入してくれれば、まともな性能評価試験ができるかもしれない。しかし、そのためにテオドラムにダンジョン内を調べられるのも面白くない。しばし考えていたクロウは、今はダンジョンの性能評価よりもテオドラムへの対処が重要であると結論づけた。



『このペースだと時間がかかりそうだな……ダンジョンの情報をただ知られるのも面白くない。……ケル、二人の屍体をもう少し手前に運んで、捜索隊をそこに誘導できるか? 通路の分岐を閉じてやれば、一本道で屍体まで案内できるんじゃないかと思うんだが……?』

『問題ありません。お任せ下さい、クロウ様』

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