第百八章 「災厄の岩窟」 5.侵入者(その3)
『しかし……結構な範囲を動き回っている割に、まだ一階層なんだな』
『マスター、この人たち、二階層なんかに行ったら、死んじゃうんじゃないですか?』
『まぁ……まるっきりの素人だしなぁ……』
『クロウ様、その素人がスパイダーゴーレムと出くわすようです』
『ほう? 早速の実働試験か。楽しみだな』
スパイダーゴーレム。クロウが趣味全開で創り上げたクモ型の……というよりもクモ型ロボットタイプのゴーレムである。狭いダンジョン内での運用を考慮して、サイズは大型犬くらい。八本の脚を素早く動かして地上や壁面を走行し、ハエトリグモのようにジャンプする事も可能。武装は背負い式の砲塔から射出される毒針・毒液・粘液・酸など、複数のヴァージョンがある。単独ではなく、常に三台以上のチームとして行動する。
「……何だ? 何か聞こえなかったか?」
「……あぁ、ガサガサというか、ザクザクというか……妙にテンポの速い音が……」
「! おいっ! モンスターだっ!」
「ちっ ひのふの……五匹か。用心……うわっっ!」
「デック!?」
「大丈夫だっ!」
『ふむ……毒針は革鎧に防がれたか……もう少し貫通力を高める必要があるな』
『そうですね。現状でも牽制にはなっているようですが』
「糞っ! こいつら毒を飛ばしてきやがるっ!」
「防具が溶ける!? 受けるな! 躱せ!」
『ふむ……酸は射出量をもう少し多目にするか、速射性能を高めた方が良いか?』
『もしくはゴーレムの数を増やすかですね』
「糞っ! 硬ぇぞ! 剣じゃ傷もつけられん!」
「駄目だっ! ズラかるぞっ!」
『ケル、適当なところで追うのを止めさせろ。やつらには他の性能評価試験もやってもらうからな』
『諒解しました』
・・・・・・・・
「ふぅ……どうやら撒いたようだな……」
「あぁ……ちょいと一休み……おいっ!? 水が無ぇっ!」
「なっ!? その水筒は、水の湧き出る魔道具の筈だろうがっ!?」
「知るかっ! 現に出ねぇんだっ!」
狼狽えた様子の男が魔道具と呼んだ水筒を逆さにするが、一、二滴ほどの水が滴り落ちただけであった。
「冗談じゃねぇ……魔道具が使えなきゃ、飲み水が無ぇぞ……」
『成る程……飲料水を水生成の魔道具に頼っていたのか……』
『このダンジョン内では、ダンジョン以外の魔力は阻害されますからね……』
『ある程度進入した時点で魔道具の調子を確認するのは、ダンジョンアタックの定石なんだがな……』
「……仕方無ぇ。ここらで切り上げて戻るぞ」
「あぁ、それしか無ぇな」
飲料水の確保が困難になったと判断した二人が撤退を決意したわけだが……
『……こいつら、方向感覚が優れているのか? それとも運が好いのか?』
着実に出口の方に進んでいた。
『このまま帰すのもつまらんな。ケル、水音で誘き寄せられるか?』
『試してみます』
「ちょっと待て、ドズ……ありゃぁ水音じゃねぇか?」
「あ? ……水の流れる音だ、確かに」
「向こうの方だぞ?」
「よしっ。行ってみるか」
『また、あっさり引っ掛かるな……こいつら、撒き餌ってものを知らんのか?』
『自分たちが……引っかけられる……ケースを……想定して……ないのでは』
『ダンジョンってものを、舐めてますねぇ~』
『浅はかですぅ』




