第十二章 ヴァザーリ伯爵領 2.陽動部隊(その1)
いよいよヴァザーリ戦の幕が上がります。
ヴァザーリ襲撃の数日前、クロウたちは作戦の実行手順を確認していた。
『今回は、町中を攪乱する部隊、伯爵軍の出動を妨害する部隊、伯爵邸を攻撃する部隊、の三手に分かれて動く必要がある。領主の私兵の駐屯地が伯爵の屋敷と離れているため、俺が兼任する事ができん。世話をかけるが、絶対に無理をせず、かつ、正体を気取られぬように動いてくれ。万一正体を知られたら、罪のないスライムやスキンク、スレイターやワームが殺されると思ってくれ』
俺たちのアドバンテージは正体を知られていない事。優勢を確保するためには、正体を隠すのは絶対条件だ。勿論、うちの子たちを危険に曝すわけにはいかないから、その点も重ねて念を押す。
『いいか、先日来の練習で、自分と離れた位置で魔法を発動させる技術は全員が習得している筈だ。その技術を存分に使って、自分の絶対安全を確保した上で攻撃を放て。……俺のダンジョン化を使って安全圏を確保できればいいんだが……』
『ご主人様……今回は……我々だけでなく……エルフや獣人も……参加します……ダンジョンマジックを……悟られる危険は……冒せません』
そう、今回はキーンたちの攪乱部隊の作戦地域が、ターゲットである奴隷商人たちの宿泊地に一部隣接している。なるべく距離を取って行動するように指示しているが、目ざとい亜人たちに見られないとも限らない。従って、ダンジョンマジックは極力使わずに作戦を実行する必要がある。一番面倒な解放作戦はエルフや獣人に任せるが、俺の切り札であるダンジョンマジックが使えないのは嬉しくない。
『まぁ、今更愚痴を言っても始まらん。では、町中の攪乱はキーンたちスキンク部隊に任せる。バレンでもやったから手順は解るな?』
『はいっ! マスター、任せて下さい!』
『伯爵軍の出動を妨害するのは、打ち合わせ通り土魔法使いに頼む。スレイとウィンが指揮を執ってくれ』
『かしこまりました、ご主人様』
『子供たちも大きくなりましたから、大丈夫、任せて下さい、主様』
『伯爵邸で悪戯するのは俺と、ライ率いるスライムたちでいいな?』
『はぃ、ますたぁ、やれますぅ』
『よぅし、それでは各部隊は配備に付け!』
この国のあり方に大きな波紋を投げかける事になる、ヴァザーリにおける奴隷解放戦。その序幕がいよいよ上がろうとしていた。
前話と本話が短めなので、本日はもう一話投稿します。




