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第百八章 「災厄の岩窟」 2.マーカス~陣地構築~

本日三話目です。

 テオドラム軍が兵を下げたとの報告に接したマーカスの首脳部は、正しくその意図を読み取って……いるつもり(・・・)になっていた。



「ダンジョンへの侵入を誘っているつもりか……」

「ダンジョンに侵入したら、テオドラム侵攻の意図ありと主張して、我が国に攻め込む腹だろう」



 テオドラムにはそんなつもりは無い。というか、そんな余裕は無い。


 テオドラムの意図はマーカスのダンジョン侵入を促すところにある、そこまでは合っているが、その目的をマーカスは読み違えた。テオドラムの目的は、マーカスをダンジョンの性質を確認するための実験台にしようというものであって、マーカス侵攻などは考えてもいない。そんな事をしたら直ちにモルヴァニア、場合によってはイラストリアが宣戦を布告し、二正面作戦か三正面作戦を強いられるのは目に見えている。いや、宣戦布告せずとも警戒のために一定の戦力を国境に貼り付けておく必要があるため、実質的に三正面作戦に準ずる事態となる。もしもダンジョン側がこれに荷担したら、最悪四正面作戦である。想像するだけで悪酔いしそうな想定だ。



「……だが、そんな下策に乗ってやる必要は無い」

「うむ。あのダンジョンは、侵入されたら面倒だから監視しておく必要はあるが、こちらが侵入する必要は特に無いからな」

「全く、面倒な位置にダンジョンが現れたものだ」

「これで、あれがダンジョンでなかった日には大笑いだろうな」



 一人の(おど)けた発言にどっと笑う一同だが、それがほぼ正解だと知ったらどんな顔をするであろうか。



「では、このまま現状維持を指示するか?」

「いや、それも面白くない。ここは一つ……」



 その閣僚の提案は、後日マーカスの国境監視部隊へと伝えられた。



・・・・・・・・



「……水路網を再整備して、陣地を強固なものにせよ……ですか?」

「あぁ。お偉方もえげつない事を考えるもんだ」



 マーカスとテオドラムが睨み合っている国境線付近は、テオドラムとの戦で荒廃してはいるが、元はマーカス領の農地であった。テオドラム軍がマーカスの領土の一部を占領した時点で、マーカスが直ちに水路網を破壊したため、占領したテオドラムも水不足に悩まされ、想定していた農業生産量を得られなくなっていた。水路の上流側をマーカスが握っている以上、テオドラム占領地への水供給を絶つのは、マーカスにとって容易な事だったのである。


 マーカス上層部からの命令は、テオドラム側へ水が流れないようにした新たな水路網を整備して水場の復活を図り、農地の一部を再生せよというものであった。そのための人員は既に手配に入っているらしい。



「現状でテオドラムの妨害が入るおそれは無いからな、ここの陣地を強化した上に、食糧生産力も増強しようっていう(わけ)だ」

「テオドラムが(かん)(しゃく)を起こしそうですね……」

「自国領の整備をしているだけだ。不仲の隣国に気を遣う必要がどこにある?」



・・・・・・・・



「マーカスが陣地の強化に走っただと……?」

「面倒な事になったな」

「どうする? 再度兵を進めるか?」

「いや……それをやっても得られるものは何も無い。こちらも陣地の強化に入る方が良いだろう」

「ダンジョンの件はしばらく様子見か?」

「そうだ。マーカスの奴らの気が変わって、ダンジョン内へ侵入しないとも限らんからな」



 テオドラムの希望は、遠からず少し違う形で叶えられる事になる。

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