表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
455/1816

挿  話 ビール狂躁曲~冷蔵技術を巡って~

書籍化記念週間という事で、本日も三話更新といたします。

 ビールを冷たいままに保存しておく技術があるらしい。



 学院――正式名称はイラストリア王国王立講学院――勤務のドワーフから、出所をぼかして伝えられたその情報は、文字通りドワーフたちを熱狂させた。しかしその一方で、冷蔵箱(アイスボックス)の技術がもたらす流通改革の重大性にも気が付いた彼らは、この件については口外を禁じる事を堅く申し合わせたのである。


 はっきりとは明かされなかったものの、どうせ情報の出所はエルフ、より正確に言えば亜人連絡会議だろうと察しを付けたドワーフたちは、(いささ)(ちゅう)(ぱら)な思いを禁じ得なかったものの、技術内容の重大性に(かんが)みて無理からぬ事であったと納得した。下手に騒いで情報が漏れ、万一にも実用化が遅れるような事になったら大変ではないか。


 ()くいう次第で各地各国のドワーフたちは、酒造ギルドによる冷蔵箱(アイスボックス)の発売を今か今かと首を長くして待ち焦がれていたのだが……そんな中にあって、一つの問題点に気付く者も出てきたのである。



・・・・・・・・



「のぅ、ギブソン、その……例の……箱の事なんじゃが……」



 冷蔵箱(アイスボックス)の情報を口に出す事は厳禁とされている――(もっと)も、ドワーフたちの秘密厳守っぷりに較べて、酒造ギルドの連中は少し口が軽いのだが――ので、ボックの言葉も煮え切らない。しかし、ドワーフたちの間では「箱」と言うだけで何の事か通じるのであった。



「ん? どうかしたか」

「いやな……箱が手に入って、その……理想的な状態を保つ事ができるとしてもじゃ、その状態にもっていくのは……何じゃ、ほれ……冬になると水が変じるアレが()ぅてはできんのじゃないか?」



 ボックの指摘は全くの正論であり、それ故にギブソンの心臓を射抜いた。冷蔵箱(アイスボックス)は氷の冷気をもって箱の中を冷やす道具であり、氷が無くてはただの箱である。冬になれば氷を入手する事もできようが、逆に言えば冬になるまで氷の入手は困難という事だ。魔術に()けたエルフなら氷結の魔術を使う事もできようが、保有魔力の低い自分たちドワーフには……



 暑い季節、冷えたビールが美味い季節に、冷えたビールが、飲めない……?



 無情な可能性に心臓が停まらなかったのは全く運が好かった……後になってギブソンはそう述懐している。



「お主の……言うとおりじゃ……箱は中身を冷やす事はできても……そのための氷の入手が困難では……」

「ギブソン! 口を慎むんじゃ!」



 ショックのあまり機密厳守を忘れてしまった呑み友達を、ボックが血相を変えて(たしな)める。このご時世、どこに誰の耳があるのか判らないのだ。たとえここが自宅であったとしても……。基本ドワーフは地声が大きい。外で耳を澄ませている者がいるかもしれないではないか。



「す、済まん……つい、取り乱してしもうた……」



 無理もない、とボックは思う。自分にしてからが、この事に気付いた日は一日呆然としていたのだ。



「じゃが……そうなると(わし)らドワーフは、何とかして……その……方法を見つけねばならんという事じゃ……」



 さもなくば冷えたビールにありつけない、という部分は怖くて口に出せなかった。



「うむ。じゃが……(わし)の頭ではその方法が思いつかん。ギブソン、お主なら良い知恵を出せるのではないか?」

「馬鹿を言え……(わし)とて鉱物の事を少し知っておるだけじゃ。魔術の事など解らんわい」

「いや……そこなんじゃ。魔術以外では……その……ナニする事はできんのか?」



 ふむ、とギブソンは考え込む。それこそ必死に考える。ドワーフにとって美味い酒が飲めないという事は、大袈裟でも何でもなく死活問題なのだ。



「……やはり(わし)には心当たりが無い……が、知っておる者はいるかもしれぬ」

「……それは?」

「うむ。例の連絡会議に問い合わせてはどうかと思うてな」



・・・・・・・・



 連絡会議がクロウの回答――情報の出所は明かしていないが――すなわち、硝石を利用した冷却技術の存在を教えられるのは、少し後の事である。

次話は約一時間後に公開の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ