第十二章 ヴァザーリ伯爵領 1.シルヴァの森
短いです。
「ホルンよ、ヴァザーリ伯爵軍は動かぬ、いや、動かさぬと、精霊術師殿はそう仰っておいでなのだな」
「長よ、精霊使い様も断言はなさらなんだ。ただ、自分なりの策を講じてみると言われただけだ。ただ、あの御方の策となると……」
「先の戦では得体の知れぬ手並みを示されたでのぅ……」
「長よ、今問題となっているのは精霊使い様の事ではない。我々、シルヴァの森のエルフはどう動くのかという事だ。俺は精霊使い様にそれを確認しておくように言いつかった」
「うむ……」
考え込んだ長を見て、エルフの男たちが口々に叫んだ。
「長よ、氏族は違えど我が同胞が、人間めに攫われ奴隷とされておるのは事実。奪い返す好機を与えてもらえるのなら否やはない」
「そうだ、シルヴァの森のエルフは腰抜けではない。バレンへの報復こそ精霊術師殿にお任せしたが、同胞の解放は我が手でなすべきだ!」
「憎き奴隷狩りどもに目にもの見せてくれる!」
「静まれ! 皆の総意が纏まっておるのなら、儂としても異は唱えぬ。じゃが、奴隷狩りどもに攫われたのはエルフだけではない。獣人たちにも話を通しておかねば角が立とう」
と、長の前に中年の女性エルフが一人進み出た。
「長、私は獣人の村に知人がおります。その獣人も、家族を人間に攫われたと嘆いておりました。此度の話を通しておけば、協力に対しても色よい返事がもらえるかもしれません」
「ワーリャか、では、頼めるか?」
「はい、今からすぐに発てば、明後日の朝には着きます」
「頼むぞ。ヴァザーリでの奴隷市まで一月を切った。事を成し遂げるには急がねばならぬ」
「長、では精霊使い様への返事には……」
「うむ。シルヴァの森のエルフは、総力を挙げてヴァザーリの奴隷狩り征伐に向かう、そうお答えしてくれ」
本格的な作戦は次話から動き出します。




