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第百六章 テオドラム 2.テオドラム王城(その1)

 テオドラム王城の会議室では、国務卿たちがシュレクへ派遣した兵たちの報告書を手にとって討議の真っ最中である。



「村は既にダンジョンの魔物たちに制圧されておるのか……」

「村人たちが魔物どもに操られておるとはな……」

()(びん)な……。今少し気付くのが早ければ、何とか救う手だてもあったかもしんが……」



 どこの世界にもいると思うが、シュレクへ派遣された部隊は上から下まで保身に()けた連中であった。彼らは自分たちに都合の悪い事――村人たちに暴行殺戮を働こうとしたところをスケルトンブレーブに止められた――などおくびにも出さず、村は既に魔物の支配下にあって、村人もその操り人形と化している云々と、いい加減な事を並べ立てたのである。一個小隊が丸ごと結束して偽りの報告をした(わけ)だが、彼らからするとさして間違った報告だとは思っていない。自分たちに多少の勇み足――村人の見解とは大きく異なる――はあったが、そんなものは村が魔物に覆われている――そんな事はない――という事実(・・)の前には問題ではない。誤差――テオドラム軍に於いては偽証と同義語らしい――の範囲であると認識していた。


 そしてテオドラムの上層部がこの報告――一部を脚色どころか全部が捏造である――を鵜呑みにした事から、事実関係の認識がおかしくなる。すなわち……



「ダンジョンの魔物どもは、縄張りを明け渡す気はないようだな……」



 実際には村人を守っただけなのだが。



「シュレクをどうする?」

「どうすると言っても……」

「放って置くしかないだろう」

「放って置く!?」

「正気か!?」

「ではどうすると? モルヴァニア、マーカスの二国との間にそれぞれ戦端が開かれようかというこの時期に、シュレクにまで兵を差し向けると言うのか?」



 マンディーク商務卿の意見に、居並ぶ他の国務卿も沈黙するしかない。二正面作戦でも大変なのに、三正面など考えたくもない。



「……シュレクは今しばらく放って置いても大事あるまい。縄張りに執着するモンスターは、縄張りの外には出んものだ」



 その前提が間違っているのだが。



「現実的にはそれしかないだろう。今事を荒立てても、得るものは無い」

「内憂を気取られると、外患まで動き出すかもしれんな」

「騒ぎを大きくするのは(まず)い。派遣した連中にも、口止めを徹底しておかねばな」



 勿論、当事者である兵士たちにも異論は無い。



・・・・・・・・



「シュレクの件はそれでいいとして……岩山の方はどうする?」



 話題は「災厄の岩窟」に移っていた。



「少々事態が錯綜しておるのでな、問題点を整理してみたい」



 そう言って、メルカ内務卿は懐からメモを取り出した。



「第一の問題点は、あの岩山(ダンジョン)が国境の真上に位置しており、しかも我が国とマーカス双方の領内に入口が開いておるという事だ。内部の構造は不明だが、領内に通じる可能性があるというだけで大問題だ。マーカスは無論、どの国であろうと、我が国への侵攻経路となり得るダンジョンへの立ち入りを認める(わけ)にはいかん。この一点に関しては、マーカスも我らと同意見だろう」



 一旦言葉を切って周りを見回す内務卿だが、誰からも異存の声は上がらない。それを確かめると、卿は再びメモに目を落とす。



「問題点の第二は、ダンジョン内で黄金が得られた事だ。埋蔵量……この場合、埋蔵量という言葉が適切なのか解らんが、ともかくそれは不明だが、黄金が得られた事には間違いない。なおかつ、その黄金はこの地で採れたものではないらしい」



 内務卿の爆弾発言に、聴衆は揃って息を呑む。



「考えてもみよ。(くだん)の場所は元々マーカスの領土。奴らがどれだけ愚鈍であろうと、金の採れる場所を麦畑にはせんだろう。以前シュレクの鉱山を開くに当たってドワーフたちから得た聞き書きにも、あの地の事は出てこなんだ」

「……というと、ゴーレムに使われていた黄金は……」

「別の場所から態々(わざわざ)運んだか……あるいはダンジョンマスターが錬金術で生み出したか……」

「待て、あのゴーレムが人間を材料にして造られたというのはデマではなかったのか? 銅の像にしても、人間が変えられた物かどうかは疑わしいと……」

「原料が何であれ、ゴーレムが黄金製なのは事実だ。そうである以上、原料の黄金をどこからか調達する必要があった筈。そして、銅像とゴーレムの間に関連性がある必要は無い」



 ぴしゃりと言い切ったメルカ卿の意見には説得力があった。



「黄金のゴーレムを造るのに、態々(わざわざ)他所(よそ)から黄金を運ぶ理由がどこにあるのか? もしもそうだとしたら、その黄金はどこから持って来た? そんな面倒な事をするより、現地で調達したと考える方がずっと簡単だろう」



 ……ただし、説得力があるのと事実かどうかは別問題である。原料となった黄金は、クロウがピットの金鉱から持って来たもので、錬金術とは無関係であった。



「そして第三の問題だが、ダンジョンマスターは人を金属に変える事ができるのか」



 この発言に、周囲の国務卿たちは困惑を隠せない。



「待て、銅像は無関係だと、つい先程言ったではないか」

「人間が変えられた物かどうかは疑わしいとも言ったぞ?」

「黄金のゴーレムとは無関係、そう言ったのだ。そして疑わしいという事は、その可能性、いや、危険性もあるという事だ」



 ここでメルカ卿は言葉を切って、順繰りに国務卿たちの顔を見回した。



「諸君はミドの国の伝説を聞いた事は無いのか?」

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