第百四章 趣味の創作ダンジョン 1.五月病対策
贋金の件はしばらくおいといて、本章から新たな火種が登場します。
(おかしい……何で俺は異世界に来てまでワーカホリックになってるんだ?)
ここのところ神経を使う仕事が続いていたところへ、五月祭、贋金計画、エッジ村の夏祭り準備という面倒な仕事が立て続けに完了、あるいは山場を過ぎた事で、クロウは一種の無気力に囚われ、根を詰めて働く毎日に些かうんざりするようになっていた。いわゆる五月病である。尤も、異世界で国家に対する経済テロを仕掛けるというのは、五月病の原因としては珍しいだろうが。
『決めたぞ。俺はしばらくのんびりする。五月祭も贋金の仕込みも夏祭りの準備も終わった今、差し迫った案件も無いからな』
日本にはゴールデンウィークという麗しい制度があるのだと言ってやったら、従魔たちは揃って感心していた。うん、良い子たちだ。
『でも、マスター、のんびりって何をするんですか?』
『文字通りのんびりだ。どこかへピクニックに行くとか、洞窟でゴロゴロするとか、まだ行った事のない国へ行くとか……あ、でも、テオドラムへの嫌がらせは継続したいな』
『嫌がらせは既定の方針なんですか?』
『そこは譲れない』
何気に楽しいからな、嫌がらせ。
『でも、嫌がらせをやってると、結局のんびりできないんじゃないですか?』
『う~ん……ついついのめり込んでしまうからなぁ……』
問題発言のような気がする。
『ご主人様、それでは新しいダンジョンなど、お造りになってはいかがでしょうか』
『新しいダンジョンか……』
さながら魔王とその部下の会話である。両者とも自覚していないようだが。
『造るのは楽しそうだが、侵入者が来ると対処が面倒なんだよな』
『あ、だったら、人が来ないダンジョンを造れば良いんですよ』
『……ダンジョンの存在意義が怪しくなっているような……』
『クリスマスシティーが……いる段階で既に……意義も定義も……揺らいでいます……今更気にしても……仕方がありません』
ハイファの意見に全員が、それもそうかと納得した。ダンジョンマスターの仕事――あるいは趣味――としてはどうかと思うが。
『しかし……人が来ない上に、テオドラムへの嫌がらせとなるダンジョンでございますか……』
『なかなか条件がシビアですね……』
『まぁ、こういうのは考えているだけでも楽しいからな』
小さな従魔たちとわいわい騒ぎながら色々な案を検討していくクロウ。端から見てもほっこりと心温まる光景である。
――検討している内容がアレなのは気にしてはいけない。
『まあ、あれだ。侵入者に関しては絶無とまではいかなくてもいいだろう。頻繁に来られると面倒なだけだからな。少しくらいなら気晴らしに丁度良い』
ますます魔王らしい発言になっている。
『ますたぁの、ダンジョンはぁ、ほとんど、そぅですよぅ』
……言われてみればそうか。
『でも、それって、何回か入った侵入者たちが、全滅した後の事ですよね?』
『いや、冒険者ギルドにしても、検分もせずにダンジョンへの立ち入りを制限したりはしないだろう』
……いや、待てよ……?




