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第百三章 ターゲットは新金貨 3.マーカス本国(その2)

 先日、怪しげなスケルトンワイバーン――怪しくないスケルトンワイバーンというのもおかしいが、要は通常のスケルトンワイバーンとはどこかしら違うという程の意味――が騒ぎを引き起こしたばかりのマーカス王国に、新たなスケルトンワイバーン発見の報が舞い込んでいた。



「新たなスケルトンワイバーンだと!?」

「数は今回も五頭。ナレクの上空を通過して、今度もテオドラムの国境に向かっていおるそうだ。前回ワイバーンが消えた場所からは何の異常も報告されておらんのだから、今回のワイバーンは前回のそれとは別口と見なければならん」



 同じ個体である。

 クロウが別の場所に転移させただけだ。



「追跡は?」

「一応ナレクから追っ手を差し向けてはいるが、あそこの守備隊の規模は大きくない。一個分隊を出すのが限界だったようだ」

「とりあえず後をつけるだけでいい。行き先が判明次第、王都から手勢を差し向けよう」

「その行き先だが……前回と同じとは考えられんかな?」

「……そう考えても、現在の進行方向とは矛盾しないな、確かに」

「国境付近の監視部隊には報せておくべきだろう」

「追っ手はどうする?」

「? 出すに決まっているだろう?」

「いや、前回と同じ場所に向かった場合だ」

「あぁ……そうだな、ワイバーンの戦力が増強されるのなら、監視部隊の方も増援しなければならん。その場合はそのまま監視部隊の指揮下に組み込む方がいいだろう」

「解った。食料や資材も含めて手配しておく」



 新たな――ではないのだが――五頭のスケルトンワイバーンは、前回と同じ場所に、今度は前回よりも手前で高度を落として接近。着陸後はやはり今度も溶けるように姿を消した。早めに高度を下げたのは、テオドラム領内の国境付近に派遣された部隊に姿を見られないための配慮だが、そんな事はマーカス軍には解らなかった。



「……同じだ。今度も掻き消すように見えなくなった……」

「あそこに何かあるんですかね?」

「何か、とは?」

「え? 例えば、姿を隠すための魔法陣とか……」

「不可視陣か……考えられなくはないが、なぜ、その存在を誇示するような真似をする?」

「ワイバーンが何を考えてるかなんて、自分にゃあ解りませんや」

「物見はなんと言ってきた?」

「別に何も見えんそうです。ただの岩場にしか見えないと」

「接近して調べれば解るんだろうが……」

「そんな理不尽な命令は出せませんや。死にに行けと言うようなもんですぜ」



 そんな事はない。


 ワイバーンたちはとっくに転移しているのだから、あそこへ行っても何も無いし、何も起こらない。しかし、神ならぬマーカス軍にそんな事は判らないのであった。



・・・・・・・・



 テオドラム王城の会議室では、国境付近に陣取ったマーカス軍が増強されたとの報告を受けて、国務卿たちが善後策を協議していた。



「新たに二個小隊の増援と物資の補給か……。マーカスは本格的な陣地を構築するつもりなのか?」

「あの辺りは前回の闘いで、我が精兵たちが命懸けでマーカスから獲得した場所だ。それだけにマーカスめは奪還を(もく)()んでおるのであろう」



 違う。


 マーカス軍があの場所に陣を張ったのは、彼らの自由意志ではない。スケルトンワイバーンがあの場所に降りたので、その近くに陣地を構えただけである。


 ついでに言っておくと、クロウにもそんな腹づもりはなかった。適当にグレゴーラムとニコーラムの間に降りるように指示しただけである。



「しかし……これでマーカスの部隊は、およそ一個中隊規模に増強された事になる」

「厄介だな……」

「しかし、何が目的だ?」

「さっき言ったように、領土の奪還を(もく)()んで……」

「たったの一個中隊でか?」

「うむ……」

「そう言われると、確かに妙だ。真実奪還を企図しておるのなら、より強大な兵力を秘密裡に準備し、一気に進駐させる筈。……我々がイラストリアに対してやろうとしたようにな」



 確かに、と考え込む国務卿たち。



「嫌がらせ……なのかもしれんな」



 ラクスマン農務卿がポツリと(つぶや)く。



「嫌がらせ?」

「モルヴァニアとマーカスはそれぞれ二個中隊と一個中隊を動かしただけだが、対する我々は一国でそれと同等以上の兵力を動かさねばならん。効果的ではあるな」

「それだけのためにか!?」

「これだから騎馬民族というやつらは!」



 最後のは偏見だろう。



「しかし……嫌がらせだとしても、なぜこの時期に、という問題は依然として残るのだが……」



 国務卿たちの悩みは尽きない。

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