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第百二章 イラストリア王国 3.領都エルギン~亜人連絡会議事務局~(その1)

 その日、クロウはエルギンの町にできた亜人(ノンヒューム)連絡会議の事務局――元は先代男爵が没収したヤルタ教の教会――を訪れていた。数十年ぶりに開催された正式な新年祭の準備への貢献が大きかったとして、エルギン男爵ホルベック卿から譲渡された物件である。クロウは変装をした上で認識阻害の魔術を行使して、事務所の一室を訪れていた。



「なかなか立派な建物じゃないか、ホルン」

「ありがとうございます。精霊使い様のお力添えで新年会の混乱を未然に防いだのが大きかったようで、領主から貰い受けたものです」

「元はヤルタ教の教会だったてぇのが、ちょいと引っかかりますがね」

「気にするな。逆に言えば、ヤルタ教にはいい当てつけだろう」

「まぁ……そうとも言えますか」

「それで、ホルン? 俺を呼んだのは五月祭の結果報告と反省会のためだろうと思うが?」

「はい」



 クロウの質問に答えて、ホルンたちは五月会の結果を報告していく。



「……マナステラのドワーフたちが?」

「はい。それはもう、脅迫と哀願が半々といった調子だったそうで……」


 どうやら五月祭で供されたビールの事を酒飲み同士の連絡で知ったマナステラのドワーフたちが、自分たちにもビールを提供するように嘆願してきたらしいんだが……それを俺に話してどうする?


「いや……俺じゃなくてドランの杜氏(とうじ)たちに相談すべき案件だろう?」

「ドランの連中に言わせると、ドワーフたちの要求をある程度満たす事は可能だそうです。ただ、そうすると人間たちに提供する分が無くなってしまうそうで……」


 あぁ、なるほど。先に身内の不満を解消するか、それともあくまでテオドラムに対する牽制を続けるか……確かに、軽々に決められる事じゃないな。


「ふむ……お前たちはどう考えているんだ?」


 俺の質問に対してホルン・トゥバ・ダイムの三人は顔を見合わせ、ホルンが代表して回答した。


「我々としてはドワーフたちの希望を優先してはどうかと」

「駄目となったら暴動でも起こしかねませんから」


 トゥバが説明を補足するが……そんな危険な状況なのか?


「ドワーフどもに新しい酒を見せつけて、そのまんまお預けってのは拷問みてぇなもんです」

「対して、人間たちへは少量を散発的に供与するだけでも、ある程度の効果は見込めますから」

「あと、あまり酒造ギルドを刺激するのもどうかと思いますし……」


 酒造ギルド?


「ビールのインパクトが大きすぎたらしく、エールの醸造所(ブルワリー)だけでなく酒造ギルドも危機感を抱いたようで……」


 ドランの村へ酒造ギルドから、ビールの生産量についての質問があったそうだ。商人などに聞かれた場合は、生産力にさほどの余裕は無いと素直に答えるように指示はしておいたんだが……まさかギルドが直々(じきじき)に乗り出してくるとはな。


「なるほどな……何も考えずに人間たちへ提供すると、酒造業界が混乱するのか」


 俺の予想よりも酒造業界の反応が早いな。一~二年くらいは様子見に徹するんじゃないかと、何となく思っていたんだが。



 実際、ビールだけのお披露目なら酒造ギルドがここまで反応する事はなかったろう。しかし今回は、ビールの他に砂糖、冷蔵の魔道具の三連弾という事情があった。一気に新製品が投入されたのを見た商業ギルドや酒造ギルドが、亜人(ノンヒューム)たちによる大規模攻勢を想像したのも無理からぬ話だったのである。



「そういう事なら……お前たちの言うとおりドワーフたちへの供給を優先するか。しかしそうすると、ドランの連中にはドワーフたちへの供給量に人間への提供量を上乗せする形でビールを造ってもらわなきゃならんのだが……大丈夫かな?」

「大丈夫でしょう。ビールの仕込みにも大分慣れたようで、色々と工夫しているようでしたから。今年中にと言うのは無理でも、一~二年以内なら問題は無い筈です」


 まぁ、それならそれでいいか。あとは……


「危機感を抱いている酒造ギルドを懐柔しておいた方がいいかもしれんな」

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